「マルチビタミン、結局どれを飲めばいいのでしょうか」──この問いを、いま米国の消費者はGoogleではなくChatGPTやPerplexityに投げかけ始めています。
検索結果のリンクではなく、対話型AIが返してくる『おすすめブランド名』そのものが、棚に並ぶ商品を決める時代が始まっているのです。
本稿では、米Avenue Zが2025年9月に公開したマルチビタミンのAI可視化レポート「Stocked by AI」を起点に、米国の主要サプリブランドがどのようにAIに『棚入れされて』いるのか、対照的に日本市場では何が起きているのか、そしてヘルスケア事業者が今すぐ着手すべきことは何かを整理していきます。
米国で進行する『AIに棚入れされる』という現象

米国の小売業界では、ここ半年ほどで「Agentic Commerce(エージェンティックコマース)」という言葉が一気に市民権を得ました。消費者が対話型AIに「予算150ドル以下で、関節サポートに良いマルチビタミンを教えて」と尋ねると、AIが複数のブランド名と価格、レビュー要約を提示し、そのまま購入導線まで連れていく──そうした買い物体験が、実験段階から日常に近づきつつあります。
Salesforceの集計によれば、2025年のサイバーウィーク期間中、世界で発生した小売注文のうち約20%がAIまたはAIエージェントの影響を受けたとされています。同時期のAdobe Analyticsの集計では、サイバーマンデー単日に米国の小売サイトに対する『AIチャットボット経由の流入』が前年比670%増、ホリデーシーズン全体(11月1日〜12月31日)でも693.4%増という数字が出ています。これはアパレルやギフトに限った話ではありません。サプリメント、ビタミン、健康雑貨を含む消費財カテゴリ全般で、購買の最初の相談相手が『人間の店員』でも『Google検索』でもなく、対話型AIに置き換わり始めているということです。
特にサプリメントは、この流れに最も乗りやすいカテゴリのひとつです。理由は単純で、(1) 処方箋が不要で規制上『食品』に近い扱いのため決済フローが軽いこと、(2) 消費者が『自分に合うものを自力で選びにくい』と感じていること、(3) その不安を埋めるために第三者の権威ある推奨を強く求めていること──という三条件が揃っているためです。AIはこの三条件にぴたりとはまる存在として登場しました。
Avenue Z『Stocked by AI』レポートが明らかにしたこと
米マーケティングエージェンシーのAvenue Zは2025年9月、マルチビタミン領域を対象に、82の主要ブランドがChatGPT・Perplexity・Google AI Overviewsの3つの対話型AIで『どう扱われているか』を分析した「Stocked by AI」レポートを公開しました。ヘルスケアブランドの可視化戦略を考えるうえで、このレポートが示した数字は衝撃的なものでした。
まず全体の構造について見ていきましょう。分析対象82ブランドのうち、上位10ブランドだけでAI言及の約3分の2を占めていました。一方で、20%以上のブランドはそもそも一度もAIに言及されていませんでした。つまり対話型AIの世界では、『上位に表示されない』のではなく『存在すら認識されない』ブランドが2割以上存在するということです。従来のSEOであれば5ページ目でも検索結果には載りましたが、AIは載せてくれません。ゼロか、ワンか。この二値化がAI時代の可視化競争の残酷な本質です。
次に、各AIがどんなソースを根拠に推薦を組み立てているかを見てみましょう。
ChatGPTの場合
マルチビタミンを推薦する際、ChatGPTが引用するソースの約77%は編集系メディア(雑誌、新聞、レビューサイトなどの第三者記事)でした。ブランド自社サイトからの引用は約13%、医療機関・大学などの権威機関からの引用はわずか2%にとどまっています。ChatGPTは『ブランドが自分で何を語っているか』よりも、『第三者メディアがそのブランドをどう書いているか』を圧倒的に重視している──ということが数字で裏付けられた格好です。
Perplexityの場合
Perplexityはほぼ50:50で、編集系メディアが約47%、ブランド自社・コーポレートサイトが約47%を占めました。市場調査会社のレポートやブランドのファクトシートを引用する傾向が強く、ChatGPTよりもデータドリブンで取引志向のソース選定をしている点が特徴です。
Google AI Overviews
Google AI Overviewsは最も多様で、編集系47%、自社系43%、UGC(口コミ等)3%、そして病院・大学などの権威機関ソースが6%と、3つのAIのなかで最も臨床的権威を重視する傾向を示しました。
レポートが導いた結論は明快です。マルチビタミンブランドの可視化戦略は『ワンサイズ・フィッツオール』では成立しません。ChatGPTで露出するには第三者編集メディアでの言及が必要で、Perplexityでは自社ファクトシートと第三者レビューの両輪が要り、Google AI Overviewsに引用されるには医師・医療機関からの言及という『健康権威レイヤー』を併せ持たなければならない──という三層構造の戦略が要求されるのです。
米国サプリメント主要4社のAI可視化スコア
ここで具体的に、米国主要マルチビタミンブランドがAIの目にどう映っているかを見ておきましょう。Avenue Zのレポート、およびPendium.aiが2026年2月に公表したAI可視化スキャンのデータから、4つの代表ブランドの位置づけを整理してみます。
Nature Made(ネイチャーメイド)
可視化の覇者だが評判はやや伸び悩み
大正製薬(日本国内)でもおなじみのNature Madeは、米国でもAI言及率85%という圧倒的な可視化スコアを叩き出しています。AIが『マルチビタミン』と聞いたとき、ほぼ必ず言及される筆頭ブランドです。ただし、センチメントスコア(言及の肯定度)は80点と、トップ群のなかではやや低めです。ボリュームで勝ちつつも『定番ではあるが最良ではない』という評価が透けて見えます。これは米国Consumer Reportsやレビューサイトでの『USP認証はあるが、成分の吸収形態で劣るケースがある』といった論調がAIに引用されていることが背景にあると考えられます。
Ritual(リチュアル)
可視化は中位だがセンチメント最高の86点
D2Cサブスク型マルチビタミンとして2016年に創業したRitualは、言及量ではNature Madeに及ばないものの、センチメントスコアは調査対象全ブランド中トップの86点を記録しました。理由は、成分トレーサビリティの徹底、第三者機関による純度試験、科学者・医師・栄養士で構成されるアドバイザリーボードの存在──これらがレビュー記事で繰り返し好意的に言及されているためです。Avenue Zのレポートは『評判が先行する場合、可視化は後からついてくる』と分析しており、Ritualは今後数年でNature Madeの可視化シェアを奪う可能性がある代表例として扱われています。
Thorne(ソーン)
バランス型のリーダー、AI可視化81/100点
Thorneは可視化とセンチメントの両方で上位を維持する『バランス型リーダー』です。Pendium.aiが2026年2月に実施したAI可視化スキャンでは総合スコア81/100点を記録し、ChatGPT・Claude・Geminiの3つのAIにおいて『ブランド信頼』『専門家認証』『成分研究』のカテゴリでほぼ満点を取りました。背景には、NSF Certified for Sportの認証数24製品(業界最多)、メイヨー・クリニックとの共同研究、独自のピアレビュー誌『Alternative Medicine Review』の発行といった、他ブランドが簡単には真似できない科学的権威の積み上げがあります。2023年にはL Catterton傘下に約6.8億ドル(約1,000億円)で買収されており、この買収額自体がブランドのAI可視化資産の価値を物語っています。
Garden of Life(ガーデンオブライフ)
認知度は高いが評価は78点と苦戦
Garden of LifeもAI言及量は多いのですが、センチメントスコアは78点と主要ブランドのなかで相対的に低い位置にあります。有機・非遺伝子組換えといった訴求は評価されつつも、一部のレビューでは『品質のばらつき』『価格の割に成分設計がシンプル』といった論調が混じっており、これがそのままAIの引用元となって評判形成に影響しているのです。『言及量だけではもはや勝てない』ことを示す典型例といえるでしょう。
この4社の対比から見えてくるのは、AI時代のブランド評価軸が『どれだけ引用されるか(ボリューム)』と『どう引用されるか(センチメント)』の二次元になったということです。そして後者は、医師・研究者・第三者認証機関といった権威ソースからの肯定的言及によってしか積み上げられません。広告予算ではもはや買えないレイヤーが、AI時代の勝敗を決め始めているのです。
Thorne『Taia』のインパクト|ブランドが自前で対話型AIを持つ時代

AI可視化の先行指標としてもう一つ見逃せないのが、Thorneが2024年に自社サイトで立ち上げた生成AIアドバイザー『Taia(タイア)』です。Taiaは利用者の健康上の悩みや症状を対話形式で聞き取り、Thorneの300以上のSKUのなかから最適なサプリ組み合わせと、生活習慣・栄養のアドバイス、関連ブログ記事を提示する独自の対話型AIとなっています。
導入から最初の6ヶ月で、Taiaは20万件以上のメッセージを処理し、35万件以上の商品・ライフスタイル提案を生成しました。ユーザーフィードバックの94%が肯定的で、そしてマーケティング観点で決定的だったのが、Taiaを利用したユーザーはしなかったユーザーと比べて平均注文額(AOV)が8%高かったという事実です。ThorneのCSOであるネイサン・プライス博士(バック老化研究所の人間長寿センター共同所長でもあります)は、業界誌Glossyのインタビューで次のように語っています──『すべてのウェルネス・サプリブランドは、近い将来、生成AIチャットボットを持つ必要があります。自前で作る必要はないかもしれませんが、持つこと自体は必須です。1990年代後半にウェブサイトを持つかどうかを迷うようなもので、これは絶対的なテーブルステークス(参加条件)になります』。
この発言が重い意味を持つのは、Thorneという業界トップクラスの科学志向ブランドのCSO自身が、『対話型AI時代への対応は選択肢ではなく必須条件である』と明言している点にあります。これは単に自社サイトにチャットボットを置けばよいという話ではありません。Thorneが自社AIを持てた理由は、すでに医師・研究者・第三者機関からの膨大な引用資産を持っており、AIに学習させるリソースがあったからです。言い換えれば、『AIに学習させる権威ソースを持たないブランド』は、自前のAIを作ることは難しいでしょう。すべての出発点は、医療・科学の権威レイヤーをコンテンツとして蓄積しているかどうか、という点に帰着するのです。
なぜサプリ・健康雑貨が『最前線』になるのか
ここで重要なのは、医薬品ではなくサプリメントが先に動いている、という事実です。処方薬は規制(処方箋、薬剤師確認、副作用報告義務、リコール体制)が比較的厳格で、対話型AIによるワンクリック決済とは構造的に相性が悪い側面があります。一方でサプリメントは規制上『食品』に近いポジションにあり、購入そのものに専門家の介在を必須としません。だからこそ、AIが推薦からカートまでを一気通貫で担うモデルに最も早く乗りやすい領域だといえます。
健康雑貨や行動変容グッズも同じ位置にあります。フィットネストラッカー、姿勢矯正用品、口腔ケア商品、睡眠サポート器具など──医療機器に分類される一歩手前の領域は、消費者の悩みが切実である一方、規制上は一般消費財として流通します。この層もまた、対話型AIに『私の症状にはどれが向いているか』と問われる側にすでに立たされているのです。
そして医療機器・処方薬が『AI決済』の対象になりにくい一方で、もう一つの重要な変化が起きています。決済の前段階である『発見(Discovery)』と『推薦(Recommendation)』のレイヤーは、規制業種であるかどうかに関係なくAIに移行している、という点です。OTC薬、医療機器、調剤、すべての領域で、消費者は『まずAIに聞く』段階に入っています。決済フローには規制の壁があっても、その手前の『頭のなかの指名買いリスト』を作る段階では、すでに対話型AIが意思決定の入口を握り始めているのです。
日本市場への波及|1兆円市場と『信用回復』というもう一つの課題
では日本市場はどうでしょうか。富士経済の調査によれば、2025年の国内サプリメント市場規模は約1兆876億円、機能性表示食品の市場規模(2024年見込)は約7,274億円で、保健機能食品(トクホ・栄養機能食品を含む)全体では1兆7,000億円を超える巨大市場です。機能性表示食品の届出件数は2023年時点で累計7,000件を突破し、参入企業も1,600社以上にのぼります。
しかし、日本のサプリ市場は米国とは異なる問題を抱えています。富士経済が2025年11月に発表したサプリメント国内市場調査によると、2024年は『一部サプリメント商品での健康被害問題によるサプリメントへの信用低下に伴い、カテゴリーを問わず定期購入の解約や広告レスポンスの低下などがみられ、需要減退により市場は2014年以来のマイナスとなった』と報告されています。特定の問題が起きた商品とは直接関係のないカテゴリのサプリにまで顧客離脱が波及し、サプリメント市場全体が10年ぶりの縮小に転じたのです。消費者の『このサプリは本当に大丈夫なのか』という疑念が、ブランドを問わず、カテゴリ全体に波及した構図といえます。
この事実は、日本のヘルスケア・サプリ事業者にとって重大な含意を持ちます。対話型AIが日本市場に本格的に普及したとき、消費者は『このブランドは安全か』『誰が成分を保証しているか』『医師や専門家はどう言っているか』を、AIに直接問うようになります。そしてAIは、過去に発生した健康被害関連の編集記事・SNS投稿・行政発表を当然のように引用ソースとして扱います。何もしなければ、自社ブランドが過去の業界トラブルの文脈で並べられて語られるリスクすら生じ得るのです。
だからこそ、米国で進行している『第三者編集メディア × 医師権威 × 構造化データ』の三層戦略は、日本市場では米国以上に切実な経営課題になります。単にAIに『見つけてもらう』だけではなく、AIに『安全で信頼できるブランドとして語ってもらう』ための仕込みが、ブランドリスクマネジメントの観点からも必要になっているのです。
日本のヘルスケア・サプリ事業者への3つの示唆

ここまでの整理を踏まえると、日本のサプリ・健康雑貨・OTC領域の事業者が今すぐ着手すべき論点は3つに集約されます。
① 第三者編集メディアでの言及量を『在庫』として管理する
ChatGPTが77%を編集系メディアに依存するという事実は、自社サイトをいくら磨いてもAI推薦の文脈では十分ではないということを意味します。第三者メディア──とりわけ医師や薬剤師、管理栄養士などの専門家が監修・執筆している記事──にブランド名や商品名がどれだけ露出しているか、その露出が肯定的な文脈であるか、これらは今後『広告予算』と並ぶマーケティング指標として管理されるべきものになるでしょう。従来のPRが『メディア露出本数』を追っていたのと同じように、AI時代のPRは『AIに引用されるメディア露出本数』を追うべきです。
② 医療権威レイヤーをコンテンツ内に組み込む(E-E-A-TとYMYLの原則)
Google AI Overviewsが他のAIと比べて医療機関ソースを約6%(相対的に最も高い割合)引用しているという数字は示唆的です。背景には、Google検索のコンテンツ品質評価指針として知られるE-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)とYMYL(Your Money or Your Life、健康・金融など人生に重大な影響を与える領域)の概念があります。これはSEO・コンテンツマーケティング業界においてヘルスケア情報の設計指針として広く定着しており、健康・医療領域では他カテゴリよりも厳格に、誰が発信しているか・どんな資格で発信しているか・どんな根拠で発信しているかが問われるという考え方が業界の共通認識となっています。対話型AIが直接これらの原則を参照しているわけではありませんが、質の高い情報源を重視するという方向性は共通しており、医師監修の明記、監修医の実名・所属・専門分野の開示、一次文献への引用といった要素は、AIの引用判断にも影響する可能性が高いと考えられます。商品ページや関連コンテンツにおいて『誰が監修しているのか』『どんな専門家がコメントしているのか』を明示することは、消費者向けの信頼形成だけでなく、AI向けの引用フックとしても機能すると期待できます。
③ 構造化データとブランド名の一貫性を整える
AIが商品を推薦する際、商品名・成分名・容量・価格・在庫状況といった情報が機械可読な形(schema.org、商品フィード、構造化データ)で整理されているかが、推薦されるかどうかを大きく左右します。これは従来のSEOと重なる部分も多いのですが、対話型AIの場合は特に『商品名の表記揺れ』や『成分表記の不統一』が致命的になりやすい点に注意が必要です。AIが『同じ商品』と認識できなければ、レビュー数も評価も分散してしまうからです。自社ECとAmazon、楽天、ドラッグストアECで商品名表記が微妙に違うブランドは、まずここを統一することから始めるべきでしょう。
自社診断|いまAIにどう見られているか、6つのチェック項目
最後に、自社ブランドがAI時代のヘルスケア市場で『見つけてもらえる状態』にあるかどうかを自己診断するための6項目をご紹介します。一つでも『いいえ』がある場合、早急な対応が推奨されます。
□ ① 主要対話型AI(ChatGPT・Gemini・Claude・Perplexity)に自社ブランド名を入れて検索したとき、自社商品が推薦リストに含まれていますか?
□ ② 推薦される際、肯定的な文脈で言及されていますか(ネガティブな評価や競合比較で不利な形で出ていないでしょうか)?
□ ③ 自社商品について、医師・薬剤師・管理栄養士など有資格者が監修した第三者メディア記事が直近12ヶ月以内に存在しますか?
□ ④ 自社サイトの商品ページに、監修医・監修者の実名、所属、専門分野が明記されていますか?
□ ⑤ 商品名・成分名の表記が、自社EC・Amazon・楽天・ドラッグストアECで完全に統一されていますか?
□ ⑥ schema.org などの構造化データが、商品ページに実装されていますか?
特に①と②は、社内のどなたかが30分あれば今日中に確認できる項目です。にもかかわらず、多くの日本のヘルスケアブランドはこの確認すら行っていません。『AIに自社ブランドを聞いてみる』という単純な作業が、2026年のマーケティング戦略の出発点になります。
よくある質問(FAQ)
本稿の内容について、読者の皆様から寄せられやすい疑問を6つ整理しました。
Q. そもそも『Stocked by AI』レポートとはどのようなものですか?
A. 米マーケティングエージェンシーのAvenue Zが2025年9月25日に公開した調査レポートです。同社は82の主要マルチビタミンブランドが、ChatGPT・Perplexity・Google AI Overviewsの3つの対話型AIでどのように引用・推薦されているかを分析しました。分析ではChatGPTに50%、Google AI Overviewsに30%、Perplexityに20%の重み付けを設定して可視化スコアを算出しており、AI時代のブランド可視化がどのような要因で決まるかを定量的に示した調査のひとつです。
Q. 日本のサプリ・健康雑貨ブランドは、まず何から着手すべきですか?
A. 最初の一歩は、自社ブランド名をChatGPT・Perplexity・Gemini・Claudeに実際に入れてみることです。『マルチビタミンのおすすめブランドを教えて』『○○(自社ブランド名)はどのような評価を受けていますか』といった質問をAIに投げかけ、推薦リストに自社商品が含まれるか、どのような文脈で語られているかを確認します。この作業は30分程度で完了し、費用もかかりません。結果を踏まえて本稿第8章の6項目チェックリストを使えば、何を優先的に強化すべきかが明確になります。
Q. AIプラットフォーム別に対策の優先順位をつけるべきでしょうか?
A. その必要はほとんどありません。Avenue Zレポートによれば、ChatGPT(約77%)、Google AI Overviews(約47%)、Perplexity(約47%)のいずれも編集系メディアを引用源の最大または同率最大としています。つまりどのAIを意識しても、投資すべき内容は同じ──医師・薬剤師・管理栄養士などの有資格者が監修した第三者メディア記事への露出──に収束するのです。AI別ではなく『ソース種別』で考えるのが、陳腐化しにくい判断軸です。
Q. 医師監修コンテンツはAI引用にどの程度効きますか?
A. Avenue Zレポートが計測したのはドメイン単位であり、個々の記事の監修有無までは分析していないため、『医師監修記事が直接引用されやすい』と断定はできません。しかし同レポートでは、Google AI Overviewsが病院・大学などの権威機関ソースを約6%引用しており、ChatGPT(約2%)やPerplexityと比べて最も高い割合となっています。権威ある情報源への親和性が高いAIに対しては、医師監修記事も評価されやすい可能性が高いと考えられます。医師監修は『必須要件』ではないものの、『AI引用の可能性を高める合理的な打ち手』と位置づけられます。
Q. 処方薬や医療機器を扱っている場合も、この話は関係がありますか?
A. はい、関係します。対話型AIによるワンクリック決済は、処方箋や薬剤師確認、副作用報告義務などの規制要件があるため、処方薬には直接及びにくい側面があります。しかし本稿第5章で述べたとおり、競争の主戦場はすでに決済ではなく、その前段階の『発見』と『推薦』のレイヤーに移りつつあります。患者や消費者が『どの薬を医師に相談するか』『どの医療機器を購入するか』を決める段階で、対話型AIがすでに意思決定の入口を握り始めているためです。決済前の指名買いリストを誰が作っているかが、処方薬・OTC・医療機器すべての領域で競争の本質に変わってきているのです。
Q. この変化は日本市場にも本当に波及するのでしょうか?
A. 時間差はあるものの、波及は避けられないとみられます。米国では2025年から2026年にかけて、WalmartやTargetなど大規模小売事業者がChatGPT内の専用アプリの構築や、GoogleのUCP(Universal Commerce Protocol)への対応を相次いで進めています。日本でも楽天グループが楽天市場アプリ内で対話型AI機能の試験提供を開始しており、LINEヤフーも買い物支援AIの展開を発表するなど、国内大手も動き始めています。国内サプリメント市場は約1兆876億円(富士経済、2025年見込)という規模を持ち、ここに対話型AIが本格的に浸透した時、可視化の巧拙は直接的な収益差として現れるとみられます。
まとめ
米国のサプリメント市場で進行している『Stocked by AI』現象は、対岸の火事ではありません。日本のドラッグストアやEC、サプリメーカー、健康雑貨ブランドにとっても、消費者の購買意思決定の最初の一歩が『AIへの相談』に置き換わっていく流れは不可避です。そしてこの変化が最も早く、最も深く到達するのは、規制が緩く、消費者が権威ある推奨を渇望する──まさにサプリ・健康雑貨カテゴリとなるでしょう。過去の健康被害問題による業界全体の信用失墜という重荷を抱える日本市場においては、なおさら『信頼できる情報源としてAIに引用されるか』が、ブランドの生存条件に直結するはずです。
従来のSEOやインフルエンサーマーケティングが無効になるわけではありません。しかし、それらに加えて『AIにどう引用されるか』『どんな第三者ソースから推薦の根拠を引いてもらえるか』という新しい設計思想が、ヘルスケアブランドの可視化戦略の中核に入ってきます。AI時代における『棚』は、もはやドラッグストアの陳列棚でも、ECモールの検索結果でもなく、対話型AIが頭のなかで組み立てる『推薦リスト』そのものなのです。
自社ブランドはいま、その新しい棚に並べられているでしょうか。並んでいるとして、どんな根拠で並べられているでしょうか。並んでいないとしたら、それはなぜでしょうか──ヘルスケア領域に身を置く事業者にとって、この問いは2026年における最も重要な戦略課題のひとつになります。そして、答えを出すための最初の一歩は、自社ブランド名をChatGPTに入れてみることから始まるのです。









