2025年12月、Salesforceが発表したサイバーウィークの集計結果が、小売業界に波紋を広げました。世界で発生した注文のうち約20%がAIまたはAIエージェントの影響を受けたというのです。同時期、Adobe Analyticsはサイバーマンデー単日でAI経由の小売サイト流入が前年比670%増を記録したと報告しています。この2つの数字が示しているのは、消費者が商品を『探す場所』が、Google検索やAmazonからChatGPTやGeminiへと移り始めているという事実です。
業界では、従来の『検索→ECモール→購入』の動線を迂回するこの現象を『アマゾン飛ばし(Amazon Bypass)』と呼び始めています。本稿では、Salesforce・Adobe・McKinseyが公表したデータと、OpenAI・Google・Amazonの動きを突き合わせながら、米国小売で実際に何が起きているのか、そして日本企業にとって何が示唆されるのかを整理していきます。
そもそも『アマゾン飛ばし』とは何か
従来のオンラインショッピングには、明確な動線がありました。消費者がGoogleで『ランニングシューズ おすすめ』と検索し、レビューサイトやECモールを経由して、最終的にAmazonや楽天などのプラットフォームで購入する──この『検索→サイト遷移→カート→決済』という4ステップが、過去20年間の米国ECの基本構造でした。
ところが2025年後半から2026年初頭にかけて、この動線そのものが組み替えられ始めています。消費者がChatGPTやGoogle Geminiに『ハワイ旅行用のワンピースを探している』と話しかけると、AIが複数のブランドと商品を提示し、そのまま購入まで導くという買い物体験が広がりつつあります。GAPがGemini上での直接購買を導入したのは、この新しい動線の象徴的な一例です。
この現象のポイントは、AmazonやECモールという『仲介者』を経由せずに、AIとマーチャント(ブランド)が直接結びつく点にあります。業界内ではこれを『アマゾン飛ばし』あるいは『エージェンティックコマース(Agentic Commerce)』と呼び始めていますが、ここで重要な問いが立ち上がります──この現象は、GAPのような象徴的な事例に限定されるのか、それとも米国小売全般で進行している地殻変動なのか。答えを探すために、まずはマクロデータから見ていきましょう。
データで見る現状|3つの決定的な数字

『アマゾン飛ばし』が本当に大規模に進行しているのかどうかは、印象論ではなくデータで確認する必要があります。2025年末から2026年初頭にかけて公表された3つのデータが、この現象の規模感を明確に示しています。
① Salesforce:サイバーウィークの注文の20%にAIが影響
Salesforceが2025年12月5日に発表した2025年サイバーウィーク(11月25日〜12月1日)の集計結果によれば、世界で発生した小売注文のうち約20%がAIまたはAIエージェントの影響を受けたとされています。金額にして約670億ドル規模です。これは『AIで検索し、AIの推薦に基づいて購入した』取引の総量であり、対話型AIが単なる情報収集ツールから購買の意思決定者へと進化したことを示す決定的な数字です。
② Adobe:サイバーマンデー単日でAI流入が前年比670%増
Adobe Analyticsが2025年12月2日に公表した速報では、サイバーマンデー単日に米国の小売サイトに対する『生成AIツール経由の流入』が前年比670%増を記録しました。ホリデーシーズン全体(11月1日〜12月31日)では前年比693.4%増という伸びです。『AIの推薦を経由してECサイトに辿り着く』という行動パターンが、わずか1年で7〜8倍に急拡大したことを示しています。
③ McKinsey予測:2030年までに最大1兆ドル規模の見通し
米McKinsey & Companyが2025年10月に公表した論文『The agentic commerce opportunity』は、『2030年までに米国B2C小売市場だけで9,000億〜1兆ドル規模の収益がエージェンティックコマース経由で動く可能性がある』という予測を示しています(グローバル全体では3〜5兆ドル規模)。これはあくまでもMcKinseyによる予測であり、確定した将来値ではない点には留意が必要です。ただし、米Fortune誌が2026年3月に掲載した分析記事は、この予測を引用しつつ、現時点ですでにTargetのような大手小売事業者ではChatGPT経由のトラフィックが月次40%ペースで成長していること、一部のブランドでは収益の10%をエージェンティックチャネルに帰属できている状況を紹介しており、予測の方向性と一致する変化が既に進行中であることを示唆しています。
これらの数字を総合すると、『アマゾン飛ばし』は一部のアパレルブランドに限定された現象ではなく、米国小売の複数の主要領域で同時に進行している構造変化として捉えるのが妥当です。対象カテゴリも多岐にわたり、玩具、家電、パーソナルケア、食品、美容、サプリメントなど、消費財の複数領域がこの波に巻き込まれ始めています。ただし、Salesforceが報告した20%という数字はサイバーウィーク期間の注文に限定されたものであり、通年・全カテゴリでの影響度を示すものではない点には注意が必要です。
先行する挑戦者|Walmart・Target・Etsyの動き
この地殻変動を受けて、米国の大手小売事業者は単に流入を受け取るだけではなく、積極的にAIエコシステムへの『自社の橋頭保』を構築し始めています。代表的な3社の動きを見ていきましょう。
Etsy:OpenAIとの最初の提携相手
手作り商品マーケットプレイスのEtsyは、OpenAIが2025年9月にChatGPT内の決済機能『Instant Checkout』を発表した際、最初の正式提携相手として選ばれました。米国のChatGPT利用者がEtsy出品者の商品を、チャット画面から直接購入できる仕組みが世界で初めて実装された瞬間でした。
Walmart:ChatGPT内に専用アプリを構築
小売最大手のWalmartも負けてはいません。同社はChatGPT内にWalmart専用アプリを構築し、利用者がチャットでの会話からWalmartの商品カタログを検索・購入できる動線を整えつつあります。さらに自社内でも生成AIアシスタント『Sparky』を開発し、顧客向けの買い物支援と社内業務向けの『Wally』という2本立ての戦略を展開しています。
Target:ChatGPT流入が月次40%成長
Targetの動きも注目に値します。前述のFortune記事および同社の公式発表によれば、同社のChatGPT経由の流入は月次40%ペースで成長しており、Targetは2025年11月にChatGPT内のTarget専用アプリをベータ版としてローンチ済みです。複数商品の一括購入や食料品ショッピング、店頭受け取り選択までチャット内で完結する仕組みを整えており、さらに2026年2月からはOpenAIと組んで文脈連動型広告のテスト配信も始めています。新CEOのMichael Fiddelke氏は2026年2月1日の就任時からテクノロジー戦略を経営の中核に据えると明言しており、AI時代の小売業をゼロから設計し直す姿勢を見せています。
これら3社に共通するのは、『AIに流入を奪われる被害者』ではなく、『AIというチャネルに自社の場所を確保する攻め手』として動いている点です。そしてもうひとつ重要なのは、これらの動きがいずれも、次章で述べるAmazonの選択とは正反対の方向を向いているという事実です。
実は静観していないAmazon|6億商品を外した防衛

ここで多くの日本の読者が意外に感じるかもしれない事実を共有します。AmazonはAIエージェント時代に対して『静観している』のではなく、積極的に壁を築いている側です。
2025年後半、Amazonは自社サイトのrobots.txtファイルを更新し、OpenAIのクローラーによるアクセスを遮断しました。その結果、ChatGPTのショッピング機能から約6億商品のAmazon取扱商品が消失したと報じられています。さらにAmazonは利用規約を更新し、AIエージェントによる自動購買行動を禁止する条項を追加しました。2025年11月には、AI検索サービスのPerplexityを提訴するという踏み込んだ動きにも出ています。同社のCometブラウザがAmazonサイト上で利用者に代わって無許可の購買行動を行っていたという主張です。
一見すると、これらの動きは『Amazonが時代遅れになっている』ように映るかもしれません。しかし同じ時期、Amazonは別の方向でも決定的な一手を打っています。2025年11月3日、AWSとOpenAIは380億ドル規模のクラウドサービス契約を締結しました。これはOpenAIがAWSのインフラを7年間活用する契約で、OpenAIがこれまで事実上単一のクラウド依存だった状況から脱却する転機となりました。さらに2026年2月27日には、AmazonがOpenAIに最大500億ドル(初期150億ドル、後続350億ドル)を出資する戦略提携を発表しました。OpenAIのAIモデルをAmazon社員がエンジニアリングに活用できる仕組みに加え、OpenAIが生成AI基盤としてAmazon独自のTrainiumチップを採用するなど、両社は技術と資本の両面で深く結びつく関係に入っています。
この2つの動きを合わせて読むと、Amazonの戦略が明確になります。同社は『AIを敵視している』のではなく、『自社プラットフォームの外で他社がAmazonの商品データを使って儲けること』を拒否しているのです。自社プラットフォーム内ではRufus(AI買い物アシスタント)とAuto Buy機能を積極展開する一方で、外部のAIエージェントには壁を築く──この『壁で囲った庭(Walled Garden)』戦略こそがAmazonの現在地です。結果として、Amazonの外側でChatGPT、Perplexity、Geminiなどを経由した買い物市場が並行して拡大するという、興味深い二重構造が生まれているのです。
OpenAIの一時後退が示すもの

『アマゾン飛ばし』の議論を正確に理解するうえで、もうひとつ押さえておくべき事実があります。OpenAIは2026年3月、当初ChatGPT内で完結する決済機能として華々しく発表した『Instant Checkout』から、戦略的な後退を行いました。
2025年9月のInstant Checkout発表時、OpenAIはEtsyとShopifyマーチャントの商品を、ChatGPTのチャット画面から『そのまま購入』できる仕組みを大々的に打ち出していました。ところがわずか半年後の2026年3月、同社は決済フローをマーチャント側のサイトに戻す方向に舵を切り直しました。CNBCの報道によれば、OpenAIのスポークスパーソンは『ChatGPTを商品発見とディスカバリーの優れた体験にすることを優先する』と説明しています。
Gartnerのアナリストは『OpenAIは取引の有効化がどれほど難しいかを過小評価していた』とコメントしています。具体的な課題は複数指摘されており、在庫データのリアルタイム同期の困難、商品価格や配送時期の不整合、消費者が『チャット内で決済を完了すること』に対して感じる心理的な抵抗などが挙げられています。
この後退をどう読むかは極めて重要です。『エージェンティックコマースは失敗した』と単純に結論づけるのは正しくありません。むしろ正確な読み方は、『発見』と『決済』が別のレイヤーとして切り分けられたということです。消費者がAIに相談し、AIの推薦に基づいて買う商品を決める──この『発見と意思決定』のレイヤーは対話型AIに移行しつつあります。一方で、実際の決済は当面マーチャント側のサイトやアプリで完結する可能性が高い、ということです。『アマゾン飛ばし』という言葉で捉えるべきは、決済そのものではなく、その前段階の『何を買うかを決める』という意思決定の入口がどこにあるかという問題なのです。
対立する2つの陣営|ACP vs UCP
エージェンティックコマースの標準化を巡っては、現在2つの陣営が競合しています。日本の読者はこの勢力図をまだあまり知らない可能性が高いので、簡潔に整理しておきます。
OpenAI陣営:Agentic Commerce Protocol(ACP)
OpenAIが決済処理大手Stripeと共同開発したオープンプロトコルです。EtsyやShopifyマーチャントを初期パートナーとし、どのAIエージェントやマーチャントでも自由に実装できるオープンソース規格として公開されています。
Google陣営:Universal Commerce Protocol(UCP)
Googleが主導するオープンプロトコルで、Walmart、Target、Shopify、Etsy、その他20社以上のパートナーが参加しています。Google検索およびGeminiへの統合を前提に設計されており、リアルタイムの商品データ、在庫情報、ロイヤリティプログラム連携といった機能を備えています。
注目すべきは、Amazonがこの2つの陣営のいずれにも参加していないことです。前章で述べた『壁で囲った庭』戦略の延長線上にある選択です。専門家の多くは、『最終的にはACPとUCPが並列に存続する』と見ています。たとえばGoogle AdsとMeta Adsが共存しているように、エージェンティックコマースの世界でも複数の標準が並立するというシナリオです。ブランド側から見れば、これは『複数の規格に商品データを対応させ続ける必要がある』ことを意味しており、商品データの構造化と配信管理が今後の新しい競争領域になることを示唆しています。
日本市場の現在地

では日本市場はどうでしょうか。結論から申し上げると、米国に比べて6〜12ヶ月程度の時間差はあるものの、同じ構造変化がすでに始まっています。
楽天グループは2025年7月30日、エージェント型AIツール『Rakuten AI』の本格提供を開始し、まず楽天モバイル契約者向けのコミュニケーションアプリ『Rakuten Link』に搭載しました。その後2026年1月5日には『楽天市場』アプリにも『Rakuten AI』を全ユーザー向けに本格搭載し、利用者がテキスト・音声・画像を使ってAIコンシェルジュと対話しながら約5億点の商品群から最適な商品を見つけられる環境を整えています。LINEヤフーも『Yahoo!ショッピング』で対話型AIエージェントを展開しており、同社幹部はTemuなど中華系ECの台頭を受けて『買い物補助AIで勝負する』と明言しています。
Amazon Japanも動いています。米国で先行展開していたAI買い物アシスタント『Rufus』を2025年9月に日本国内の全利用者に導入しました。同社の2025年第3四半期決算によれば、Rufusを利用した顧客の購入完了率は、利用していない顧客と比べて60%高いという成果が既に報告されています。
つまり日本市場では、米国で見られた『OpenAI vs Google vs Amazon』の三つ巴構造が、『楽天 vs LINEヤフー vs Amazon Japan』という形で相似的に立ち上がりつつあります。さらに海外勢としてChatGPT・Perplexity・Gemini等も日本語対応を進めており、今後はこれらが国内プレイヤーと競合・共存する局面に入っていきます。日本のBtoC事業者にとって、この時間差は重要な意味を持ちます。米国で既に試された成功・失敗の事例を観察できる立場にあるということは、同じ失敗を繰り返さずに済む準備期間があるということでもあるからです。
日本企業への3つの示唆
ここまで整理した内容を踏まえ、日本のBtoC事業者が今すぐ意識すべき論点を3つに絞ってお伝えします。
① 発見と決済を切り分けて考える
第5章で述べたとおり、2026年初頭の時点で戦いの主戦場は『決済』ではなく『発見』レイヤーに移っています。AIに自社ブランドがどう認識されているか、どう語られているか、どう推薦されているかが、将来の売上を左右する先行指標になります。『ChatGPTで決済できるようにする』という施策よりも、『ChatGPTに自社商品を発見してもらえる状態を作る』という施策のほうが優先度が高いということです。
② プロトコル中立の商品データ戦略
ACPとUCPの2陣営が並立する状況下では、どちらか一方に賭けるのではなく、両方に対応できる商品データ設計が必要になります。具体的には、schema.orgの構造化データ、Google Merchant Centerへの商品フィード登録、そして商品名・成分名・価格・在庫状況の表記統一といった『機械可読性』の基礎整備です。これは従来のSEOと重なる部分もありますが、AIエージェントが商品情報を正確に解釈できるかどうかという観点では、より厳密な整備が求められます。
③ AIに『ブランドを理解させる』投資
最も重要でありながら最も見落とされがちなのが、AI側に自社ブランドの情報を学習させる投資です。対話型AIは、質の高い第三者メディア記事・専門家による監修コンテンツ・権威機関からの言及を重要な情報源として扱います。つまり『AIに自社ブランドをどう語ってほしいか』を逆算して、そのためのコンテンツをどの媒体に載せるかを戦略的に設計する必要があります。この視点は、特にヘルスケア・健康食品・美容・金融などYMYL領域(Your Money or Your Life、人生に重大な影響を与える領域)のブランドにとって決定的な重要性を持ちます。
よくある質問(FAQ)
本稿の内容について、読者の皆様から寄せられやすい疑問を6つ整理しました。
Q. 『アマゾン飛ばし』は本当にAmazonの売上に影響しているのですか?
A. Amazonの売上そのものは依然として巨大ですが、『購買の入口』が徐々に対話型AIに移行している兆候は確実にあります。現時点で顕著な恩恵を受けているのは、AmazonではなくWalmartやTargetなどの競合小売事業者です。TargetではChatGPT経由の流入が月次40%のペースで成長しているという報告があり、長期的にはAmazonの『発見の入口』としての主導権が揺らぐ可能性が指摘されています。
Q. 日本でもこの現象はすでに始まっているのですか?
A. はい、始まっています。楽天グループは2025年から楽天市場アプリ内で対話型AI機能の試験提供を開始し、LINEヤフーも買い物支援AIの展開を発表しています。Amazon Japanも2025年9月にAI買い物アシスタント『Rufus』を全利用者向けに導入済みです。米国との時間差は6〜12ヶ月程度と推測され、本格的な普及は2026年から2027年にかけてと見込まれます。
Q. OpenAIがInstant Checkoutから撤退したなら、エージェンティックコマースは失敗したのでは?
A. 撤退したのは『AI内で決済まで完結させる』機能だけであり、『AIで商品を発見・推薦する』体験はむしろ強化されています。OpenAIはWalmartやTargetなどと専用アプリを構築する方向に戦略を切り替えており、消費者の購買意思決定の入口がAIに移る流れは継続しています。失敗ではなく『発見と決済の切り分けが明確になった』と捉えるのが正確です。
Q. AmazonがAIエージェントを締め出しているなら、『アマゾン飛ばし』は一時的な現象で終わるのでは?
A. Amazonの壁は自社プラットフォーム内の話にすぎません。消費者がChatGPTやPerplexityでWalmart・Target・Etsy等の商品を発見・購入する流れは、Amazonの壁の外側で並行して拡大しています。加えてAmazon自身も、2025年11月にAWSとOpenAIの380億ドル規模のクラウド契約を締結し、さらに2026年2月にはOpenAIへ最大500億ドルの戦略出資を発表するなど、AIと完全に敵対しているわけではありません。構造変化は不可逆的に進行しています。
Q. このトレンドに対応するため、日本のBtoC事業者がまず始めるべきことは何ですか?
A. まず自社ブランド名をChatGPT・Perplexity・Gemini・Claudeに入れてみることです。自社商品が推薦リストに含まれるか、どのような文脈で語られているかを確認するだけで、AI時代における自社の可視化状態が把握できます。この作業は30分程度で完了し費用もかかりません。その結果を踏まえて、商品データの構造化や第三者メディアでの露出戦略を設計するのが合理的な順序です。
Q. 日本の小売業界は将来的にどう変わっていきますか?
A. 米国の先行事例から推測すると、『発見』『推薦』『決済』の各段階で対話型AIが介在する割合が段階的に増えていくとみられます。McKinseyは米国小売で2030年までに最大1兆ドル規模の影響を予測しており、日本市場も同様の構造変化に直面する可能性が高いでしょう。早期に対応を始める企業と静観する企業の間では、AI時代の可視化資産に明確な格差が生まれることが予想されます。
まとめ
本稿の議論を振り返ると、『アマゾン飛ばし』という言葉は実態を一部しか捉えていないことが見えてきます。より正確な表現は『発見のアマゾン飛ばし』です。決済そのものはマーチャント側に戻りつつありますが、それはむしろ『何を買うかを決める』という意思決定の入口がAIに移ったことの裏返しなのです。消費者の頭のなかの『指名買いリスト』を誰が作っているか──この一点が、米国小売業界における競争の本質に変わりつつあります。
Salesforceが示した20%、Adobeが示した670%、Fortune/McKinseyが示した1兆ドル。この3つの数字は、単なるアパレル業界のニュースではなく、米国消費財小売の全カテゴリで進行している構造変化の規模を物語っています。そして日本市場も、楽天・LINEヤフー・Amazon Japanの動きが示すように、6〜12ヶ月の時間差でこの波に入りつつあります。
では日本のBtoC事業者は、この時間差をどう使うべきでしょうか。本稿で示した3つの示唆──発見と決済の切り分け、プロトコル中立の商品データ戦略、そしてAIに『ブランドを理解させる』投資──を出発点として、自社ブランドのAI時代における可視化戦略を早期に設計し始めることをお勧めします。『AIに見つけてもらえるか』という問いは、2026年以降の日本の小売・消費財業界における最も重要な経営課題のひとつになります。特にヘルスケア・サプリメントなど、消費者が権威ある推奨を渇望するカテゴリでは、この波が最も早く、最も深く到達するとみられます(この点については別稿で詳述します)。
参考文献
Adobe Analytics『Cyber Monday Hits Record $14.25 Billion in Online Spending』
Adobe Analytics『Holiday Shopping Season Drove a Record $257.8 Billion Online』
Fortune『AI agents are already driving 10% of revenue for some brands. Is yours invisible to them?』
OpenAI『Buy it in ChatGPT: Instant Checkout and the Agentic Commerce Protocol』
CNBC『OpenAI's first try at agentic shopping stumbled. It's trying again』
Opascope『AI Shopping Assistant Guide 2026: Agentic Commerce Protocols』
Target Corporate『About Target's conversational AI advertising test』
Modern Retail『Amazon quietly blocks more of OpenAI's ChatGPT web crawlers from accessing its site』







