2025年11月下旬、Amazon.comのrobots.txtファイルが更新され、OpenAIのクローラーが遮断されました。独立系eコマースアナリストのJuozas Kaziukėnas氏がLinkedInでこの変更を最初に報告し、Modern Retail等のメディアが追認しています。この措置の結果、ChatGPTのショッピング機能から約6億のAmazon取扱商品が見えなくなりました。同じ月、AmazonはAI検索サービスPerplexityを提訴しています。
一方で、2026年2月にはOpenAIに最大500億ドルの出資を発表しました。AIを遮断しながらAIに投資する──この一見矛盾した動きの裏には、極めて合理的な戦略があります。本稿では、Amazonの『壁で囲った庭(Walled Garden)』戦略の全貌を解き明かし、日本のAmazon出品者やBtoCブランドにとって何が示唆されるのかを整理していきます。
ある日突然、6億商品がChatGPTから消えた
2025年11月24日、OpenAIはChatGPTの新機能『Shopping Research』をリリースしました。利用者が買い物の相談をすると、AIがWebから商品情報を収集し、パーソナライズされた購入ガイドを生成する機能です。世界で週約7億人が利用するChatGPTに、本格的なショッピング機能が搭載された瞬間でした。
ところがこのリリースとほぼ同時に、Amazonは自社サイトのrobots.txtファイルを更新しました。robots.txtとは、Webサイトの管理者が検索エンジンやAIのクローラー(自動巡回プログラム)に対して『このページにはアクセスしないでください』と指示するための標準的なテキストファイルです。Amazonはこのファイルに、OpenAIが運用する複数のクローラー──ChatGPT-User(チャット内でリアルタイム情報を取得するエージェント)、OAI-SearchBot(SearchGPTの検索用クローラー)、GPTBot(モデル学習用クローラー)──を遮断する記述を追加しました。
この措置の結果、ChatGPTのShopping Research機能はAmazonの商品ページ、価格情報、レビューに対してリアルタイムのアクセスができなくなりました。Modern Retailの実地テストによれば、利用者がChatGPTに『Amazonでおすすめの商品を教えて』と聞いた場合、ChatGPTはAmazon以外の小売業者の商品を推薦したり、『Amazonでの在庫や価格の確認はご自身で行ってください』と利用者に促したりする挙動が確認されています。Amazonが取り扱う約6億商品が、世界最大のAIチャットボットのショッピング機能からリアルタイムで参照できない状態になったのです。
robots.txtと利用規約の二重ロック

Amazonの防衛は、robots.txtだけにとどまりませんでした。同社はほぼ同時期に利用規約も更新し、AIエージェントによる自動購買行動を明示的に禁止する条項を追加しています。つまり、技術的な遮断(robots.txt)と法的な禁止(利用規約)の二重構造で、外部AIエージェントのアクセスを封じたということです。
さらに注目すべきは、Amazonがこの遮断をOpenAIだけに限定しなかったことです。2025年8月にはすでに、Meta、Google、Huawei、Mistralなど計6社以上のAI関連クローラーをrobots.txtに追加しています。Modern Retailの報道によれば、独立系アナリストのKaziukėnas氏は『Amazonは必死にAI企業による自社データでのモデル訓練を止めようとしている。しかし、もう手遅れかもしれない──Amazonのデータはすでにこれらのモデルの学習データセットに入っている』とコメントしています。
ここで重要なのは、robots.txtはあくまで『紳士協定』であるという点です。robots.txtは法的な強制力を持たず、クローラー側が自発的に従うかどうかに依存します。OpenAIは自社のクローラーがrobots.txtの指示を尊重すると公式に表明していますが、すべてのAI企業がそうするとは限りません。だからこそAmazonは、robots.txtに加えて利用規約と訴訟という3層の防衛ラインを構築したのです。
なぜ遮断したのか|年間$56B広告ビジネスの防衛
Amazonがこれほど強硬な姿勢でAIエージェントを遮断する最大の理由は、年間560億ドル(約8.5兆円)規模の広告ビジネスの防衛にあります。
Amazonの広告ビジネスモデルは、消費者がAmazon.comを訪問し、商品を検索し、検索結果ページでスポンサー広告を見てクリックする──この動線の上に成り立っています。消費者がAmazonに来る前にChatGPTやPerplexityで『おすすめの商品を教えて』と聞いて、AIの推薦に基づいてWalmartやTargetで購入してしまえば、Amazonの検索結果ページ自体が表示されません。広告が表示されなければ広告収入は発生しません。
さらにAmazonは、Perplexityへの訴状の中で自社の懸念をより具体的に説明しています。同社は、AIエージェントによる自動トラフィックが発生すると、それを検知してフィルタリングし、広告主に対して自動トラフィック分の課金を行わないようにする仕組みの構築が必要になると述べています。つまり、AIエージェントが広告枠を通過することで、広告の計測精度が低下し、広告主との契約上の義務を果たせなくなるリスクがあるということです。
この点を理解すると、Amazonの行動は『AIを嫌っている』のではなく、『自社の収益構造を守るために、外部AIエージェントのアクセスを制御している』という極めて合理的なビジネス判断であることが見えてきます。
Perplexity訴訟が示した『境界線』

2025年11月4日、AmazonはAI検索サービスのPerplexityを北カリフォルニア連邦地裁に提訴しました(Case No. 3:25-cv-09514)。焦点となったのは、Perplexityが開発したCometブラウザです。
CometブラウザはAI搭載のWebブラウザで、利用者に代わってWebサイトを操作し、商品の検索・比較・購入までを自動化する機能を備えていました。Amazonの訴状によれば、CometブラウザはAmazonのサイト上で、利用者のアカウント情報を使って無許可で商品を閲覧・購入する行為を行っていたとされています。
この訴訟は2026年3月に仮差止命令(preliminary injunction)が認められ、裁判所はPerplexityのCometブラウザがAmazonのサイトに無許可でアクセスしていた可能性が高いと判断しました。この結果は、AIエージェントによるECサイトの自動操作に関して、法的な『境界線』が引かれた最初の事例のひとつとなりました。
この訴訟が示唆しているのは、AIエージェントが消費者の代わりにECサイトを操作する行為には、サイト運営者の明示的な許可が必要だという法的原則が形成されつつある、ということです。この原則が定着すると、AmazonだけでなくすべてのEC事業者にとって『AIエージェントにどこまでアクセスを許すか』が重要な経営判断事項になります。
壁の内側|RufusとAuto Buyというもうひとつの顔
ここまでの話を聞くと、Amazonは『AI反対派』の企業に見えるかもしれません。しかし実態はまったく逆です。Amazonは壁の内側で、積極的にAIを展開しています。
その代表格が、AI買い物アシスタント『Rufus』です。Rufusは2025年9月に日本を含む複数市場に全ユーザー向けに導入されており、消費者がAmazonアプリ内でチャット形式の質問をすると、商品の推薦、スペックの比較、レビューの要約などを対話的に提供します。Amazonの2025年第3四半期決算によれば、Rufusを利用した顧客の購入完了率は、利用していない顧客と比べて60%高いという成果が報告されています。
さらにAmazonは『Auto Buy』機能のテストも進めています。これは消費者が事前に設定した価格条件に基づいて、AIが自動的に商品を購入する機能です。たとえば『このイヤホンが1万円以下になったら自動購入して』と設定しておくと、条件を満たした時点でAIが購入を実行します。
また、Rufusには広告機能の統合も進められており、スポンサードプロダクト広告がRufusの回答内に表示されるテストが実施されています。つまりAmazonは、AI買い物体験の中核を自社で握り、その上に広告ビジネスを乗せる構造を設計しているのです。外部のChatGPTやPerplexityにこの役割を渡す理由はまったくありません。
壁の外側で起きていること|WalmartとTargetへの流入シフト
Amazonが壁を築いている間に、壁の外側では競合他社が大きな恩恵を受けています。
メディコレNEWSの『米国で進む「アマゾン飛ばし」の正体』で詳述したとおり、WalmartはChatGPT内に専用アプリを構築し、Targetは2025年11月にChatGPT内のTarget専用アプリをベータ版としてローンチ済みです。Target公式の発表によれば、ChatGPT経由のTargetへの流入は月次40%のペースで成長しています。
さらに両社は、Google主導のUniversal Commerce Protocol(UCP)にも参加しています。UCPはGoogle検索およびGeminiへの統合を前提に設計されたオープンプロトコルで、Walmart、Target、Shopify、Etsy、その他20社以上がパートナーとして参加しています。AmazonはこのUCPにも、OpenAI主導のAgentic Commerce Protocol(ACP)にも参加していません。
この構図を消費者の視点から見ると、以下のようになります。ChatGPTに『ワイヤレスイヤホンのおすすめを教えて』と聞いた場合、AIが推薦する商品リストにAmazonの商品は含まれず、Walmart、Target、Best Buy、Etsy、Shopifyマーチャントの商品が表示されます。消費者の購買意思決定の入口がAIチャットに移る流れが続く限り、Amazonは自社プラットフォームの外側で進行する『発見』のレイヤーから排除された状態が続くことになります。
矛盾する動き|OpenAIへの$50B出資の意味

2025年11月のrobots.txt遮断とPerplexity訴訟の一方で、Amazonは同じ月にAWSとOpenAIの間で380億ドル規模のクラウドサービス契約を締結しています。そして2026年2月27日には、AmazonがOpenAIに最大500億ドル(初期150億ドル、後続350億ドル)を出資する戦略提携を発表しました。
この一見矛盾した動きは、Amazonの戦略の二面性を最も端的に表しています。整理すると以下の構造です。
第一の面は『インフラ提供者としてのAmazon』です。AWSはOpenAIにクラウドインフラを提供し、そこから巨額の利用料を得ます。OpenAIのAIモデルの訓練と推論にAWSのGPUとTrainiumチップが使われることで、AWSのクラウド事業が強化されます。これは純粋なBtoBインフラビジネスであり、消費者のショッピング体験とは直接関係しません。
第二の面は『小売プラットフォームとしてのAmazon』です。こちらでは、外部AIエージェントがAmazonの商品データや価格情報を使って消費者を他社へ誘導することを断固として拒否します。自社プラットフォーム内ではRufusとAuto Buyを展開し、AI時代の買い物体験を自社で完結させます。
つまりAmazonは『AIのインフラを売る側』と『AIから自社ECを守る側』を同時にやっているのです。これは矛盾ではなく、事業ポートフォリオの異なるレイヤーでそれぞれ最適な戦略を取っているということです。Google検索の広告ビジネスとGoogle Cloudのインフラビジネスが別の論理で動いているのと同じ構造だと考えるとわかりやすいかもしれません。
Amazon出品者・ブランドが今考えるべき3つのこと
ここまでのAmazonの動きを踏まえると、日本のAmazon出品者やBtoCブランドにとって、以下の3つが今すぐ意識すべき論点になります。
① Amazon『だけ』に依存するリスクの再認識
Amazonがrobots.txtで外部AIクローラーを遮断したことは、Amazon出品者にとって『Amazonの壁の中にいれば安全』という意味ではありません。むしろ逆です。Amazonの壁の中にしかいない商品は、ChatGPT・Perplexity・Geminiなどの対話型AIから完全に見えなくなります。消費者の購買意思決定の入口がAIチャットに移りつつある現在、Amazon専売の商品は『AIの推薦リストに載らない商品』になるリスクがあるのです。自社ECサイト、Shopify、その他のマーケットプレイスへの販路を併せ持つことが、AI時代のリスクヘッジになります。
② 『AIに見つけてもらえるコンテンツ』の整備
メディコレNEWSの『サプリは「AIに棚入れされる」時代へ』で詳述したとおり、対話型AIは第三者メディアの編集記事・専門家の監修コンテンツ・権威機関からの言及を重要な引用ソースとして扱います。Amazon上の商品ページだけでは、AIの引用ソースとして認識されにくい構造になっています。自社ブランドに関する情報が、Amazon以外のWeb上にどの程度・どのような文脈で存在しているかを棚卸しすることが、AI時代の可視化戦略の第一歩です。
③ Rufus最適化と外部AI最適化の二面作戦
Amazon内で売り続けるためにはRufusに最適化された商品ページ作りが必要であり、同時にAmazon外の対話型AIにも自社ブランドが見えるようにする投資も必要です。前者は従来のAmazon SEOの延長線上にありますが、後者はまったく異なるスキルセットを要求します。schema.orgの構造化データ整備、第三者メディアでの専門家監修記事の獲得、llms.txtの設置といった施策は、Amazon内部のRufusには直接影響しませんが、Amazon外部のChatGPT・Perplexity・Geminiでの可視化に効いてきます。この二面作戦を同時に進められるかどうかが、今後のブランド競争力を分ける要因になると考えられます。
よくある質問(FAQ)
本稿の内容について、読者の皆様から寄せられやすい疑問を6つ整理しました。
Q1. robots.txtでの遮断は法的に有効なのですか?
A. robots.txt自体には法的な強制力はなく、あくまでクローラー側が自発的に従う『紳士協定』です。ただしAmazonは、robots.txtに加えて利用規約の改定とPerplexityへの訴訟という3層の防衛ラインを構築しており、法的拘束力は利用規約と訴訟によって補完されています。2026年3月9日にはPerplexityに対する仮差止命令が認められており、法的な実効性は一定程度確認されています。Amazonはさらに2026年3月、Business Solutions Agreementを改定し、AIエージェントによるアクセス時の身元開示を正式に義務化しました。
Q2. Amazon出品者は何も影響を受けないのですか?
A. Amazon内での販売そのものに直接の影響はありません。しかし、Amazon専売の商品はChatGPT・Perplexity・Geminiなどの対話型AIから見えなくなっています。消費者がAIに買い物の相談をした場合、推薦リストにAmazon専売商品は含まれにくい状況です。購買意思決定の入口がAIに移りつつある現在、これは中長期的な販売機会の損失につながるリスクがあります。特にヘルスケア・コスメなど消費者が商品を比較検討するカテゴリでは、Amazon以外のチャネルでの可視化戦略が不可欠になります。
Q3. AmazonのRufusは日本でも使えますか?
A. はい、Rufusは2025年9月に日本国内の全利用者向けに導入済みです。Amazonアプリ内でチャット形式の質問をすると、商品推薦、スペック比較、レビュー要約などが対話的に提供されます。Amazonの決算報告によれば、2025年末時点で約2億5千万人の顧客がRufusを利用しており、Rufus利用者の購入完了率は非利用者と比べて60%高いという成果が出ています。今後はスポンサード広告との統合も進む予定で、Amazon内部のAI買い物体験の中核になっていく見通しです。
Q4. Amazonは今後もAIを遮断し続けるのでしょうか?
A. 完全な遮断を永続させるとは限りません。AmazonのCEOは決算報告で『第三者のショッピングエージェントとの対話については協議中である』と発言しています。将来的には条件付きでのアクセス許可(例:広告モデルとの連携、データ利用料の課金など)に移行する可能性が示唆されていますが、現時点では具体的なタイムラインは公表されていません。
Q5. 自社ECを持っていればこの問題は関係ありませんか?
A. 自社ECサイトがあればAmazonの壁には直接影響されませんが、それだけでは不十分です。対話型AIに自社商品を推薦してもらうためには、AIが引用できる質の高いコンテンツがWeb上に存在している必要があります。商品ページだけでなく、第三者メディアでの紹介、専門家による監修記事、構造化データの整備といった投資が、AI時代の可視化の前提条件になります。
Q6. この話はヘルスケア・サプリメント業界にどう関係しますか?
A. 直接的に関係します。ヘルスケア領域は、消費者が『この商品は本当に安全か』『誰が推薦しているか』を最も気にするカテゴリです。対話型AIは健康関連の質問に対して特に権威機関ソースを重視する傾向があるため、医師監修コンテンツや専門家による推薦が、AIの引用判断に大きく影響します。Amazonの壁の内外を問わず、この領域での可視化戦略は最も緊急度が高いといえます。
10. まとめ|『壁で囲った庭』戦略が意味するもの
本稿で見てきたAmazonの動きを一言でまとめると、『AIを敵視しているのではなく、自社プラットフォームの外で他社がAmazonのデータで儲けることを拒否している』ということです。壁の内側ではRufusとAuto Buyを積極展開し、壁の外側ではrobots.txt・利用規約・訴訟の3層で防衛する。そしてインフラレイヤーではAWSを通じてOpenAIに500億ドルを出資する。この三層構造がAmazonの『壁で囲った庭(Walled Garden)』戦略の全貌です。
この戦略がブランドや出品者に突きつけている問いは明快です。『あなたの商品は、Amazonの壁の内側にしか存在しませんか?』──もしそうだとすれば、その商品はChatGPTやPerplexityやGeminiの推薦リストには永遠に載りません。消費者の購買意思決定の入口がAIチャットに移りつつある世界で、これは見過ごせないリスクです。
Amazonの壁の内側でRufusに最適化しつつ、壁の外側でも対話型AIに自社ブランドを見つけてもらえる状態を作る──この二面作戦を早期に設計できるかどうかが、AI時代のブランド競争力を決定づけることになります。そしてこの二面作戦の中でも、ヘルスケア・サプリメントなど消費者が権威ある推奨を渇望するカテゴリでは、専門家監修のコンテンツ整備がとりわけ重要な意味を持ちます(この点については本シリーズの別稿で詳述しています)。
参考文献
Modern Retail『Amazon quietly blocks more of OpenAI's ChatGPT web crawlers from accessing its site』
Modern Retail『Amazon expands its fight to keep AI bots off its e-commerce site』
emarketer『Amazon moves to shut out ChatGPT bots as agentic shopping pressure rises』
OpenAI / AWS『AWS and OpenAI announce multi-year strategic partnership』
CNBC『How Amazon's massive stake in OpenAI could boost its AI and cloud businesses』
Target Corporate『About Target's conversational AI advertising test』
Marketing Dive『Amazon's bet on Prime Video ads pays off as advertiser pool widens』









