
この記事はメディコレWEBを通じた医師監修を受けています。
「早発閉経と診断されたら、自分の卵子で妊娠することはあきらめるしかない」——そう思い込んでいた人に、希望の光をもたらす研究成果が発表されました。
2026年2月、順天堂大学の研究グループが、腎臓病や心不全の治療に使われている飲み薬「フィネレノン」が、早発閉経の患者の卵巣機能を回復させる可能性があると発表しました。この研究は世界的に権威ある科学誌「Science」に掲載され、国際的にも大きな注目を集めています。
本記事では、早発閉経とはどんな病気か、今回の研究で何がわかったか、そして患者への影響を、専門医の見解を交えながらわかりやすく解説します。
⚠️ 本研究は非常に希望のある内容ですが、フィネレノンの不妊治療への使用は現在「臨床試験段階」です。明日からすぐ一般の婦人科で処方してもらえるわけではありません。
フィネレノンは腎臓病などの治療薬として国内で流通していますが、「家族に処方された薬を勝手に飲む」「海外の個人輸入代行サイトなどで不正に入手する」といった行為は、命に関わる重大な副作用を引き起こす危険があるため絶対におやめください。
【この記事のポイント】
|
|---|
早発閉経とはどんな病気?——女性の3.5%が発症

閉経とは、卵巣の機能が衰え、月経(生理)が完全に止まることです。通常は50歳前後に起こりますが、40歳未満で閉経してしまうことを「早発閉経」または「早発卵巣不全」といいます。
女性の約3.5%が発症するとされており、決してまれな病気ではありません。早発閉経になると、卵巣の中に卵子のもと(卵胞)はまだ残っているにもかかわらず、さまざまな原因によってその成長が止まってしまいます。
月経がなくなること自体のつらさに加え、妊娠を希望する場合でも自分の卵子を使って妊娠することが非常に難しくなります。これまで確立された治療法はなく、「他の人から提供してもらった卵子で体外受精をする」以外に有効な選択肢がありませんでした。
早発閉経の主な症状と原因
区分 | 内容 |
|---|---|
主な症状 | 月経不順・無月経、ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、気分の落ち込み、不妊 |
主な原因 | 原因不明が多い。染色体の異常、自己免疫の問題(体が自分の卵巣を攻撃してしまう状態)、がん治療(抗がん剤・放射線)による卵巣へのダメージなど |
診断の目安 | 40歳未満で月経が4ヵ月以上止まり、ホルモン検査で卵巣機能の低下が確認される場合 |
これまでの治療法——手術が必要で体への負担が大きかった
早発閉経の患者が自分の卵子で妊娠を目指す方法として、順天堂大学の河村和弘教授らの研究グループがこれまでに「卵胞活性化療法(IVA)」を開発し、実用化してきました。
この方法は、お腹に小さな穴を開けて行う内視鏡手術(腹腔鏡手術)で卵巣の一部を体の外に取り出し、眠ったままになっている卵子のもとを目覚めさせてから再び体内に戻すというものです。多くの患者の妊娠に貢献してきた一方で、手術を伴うために体への負担が大きいことが長年の課題でした。
そこで研究グループは、手術を必要としない、体への負担の少ない新たな治療法の開発に取り組んできました。
どんな薬が効くの?腎臓病の飲み薬「フィネレノン」が卵巣を若返らせる仕組み

「既存薬の転用」という手法を活用
今回の研究で用いられたのは、「ドラッグリポジショニング(既存薬転用)」と呼ばれる手法です。これは、すでに別の病気の治療薬として承認・使用されている薬の中から、新たな病気にも効果がある薬を探し出すアプローチです。
一から新しい薬を開発するよりも、すでに人での安全性が確認されているため、患者への投与までの時間を大幅に短縮できる点が大きなメリットです。
研究グループは、アメリカの食品医薬品局(FDA)が承認している1,297種類の薬を調べ、卵子のもと(原始卵胞)を目覚めさせる効果を持つ薬を探索しました。
「フィネレノン」に効果を確認——作用のしくみも解明
広範囲のスクリーニングの結果、慢性腎臓病や慢性心不全の治療薬である「フィネレノン」に効果があることがマウスを使った実験で確認されました。
なぜフィネレノンが卵巣に効くのか、そのしくみも研究で明らかになっています。卵子のもとが成長するのを妨げている原因のひとつが、卵巣の「線維化」です。線維化とは、卵巣の組織が硬くなってしまう状態で、卵子のもとが発育するのを物理的にも阻害すると考えられています。
フィネレノンは「ミネラルコルチコイド受容体」という体内の受容体(受け取り口)の過剰な働きを抑えることで、この卵巣の線維化を和らげます。その結果、これまで眠ったままだった卵子のもとが成長できる環境が整えられると考えられています。
研究の主な結果まとめ
マウス実験:卵巣機能が低下したマウスにフィネレノンを飲ませたところ、卵子のもとの成長が確認された。その後交配させると出産に成功し、マウスの赤ちゃんに異常は認められなかった
患者への投与:中国・深圳の香港大学病院で、早発閉経と診断された14人の患者にフィネレノン(20mgを週2回)を3〜7ヵ月間投与
全員で卵子のもとの成長を確認:14人全員(100%)で卵胞の発育が確認され、1人あたり平均5.7個の胞状卵胞が確認された
8人で採卵に成功:13人が卵巣刺激を受け、8人の計17個の卵胞から採卵。12個の卵子が得られ、そのうち9個が成熟した卵子だった
受精卵の凍結保存に成功:既婚患者5人がそれぞれ1個の受精卵を凍結保存することができた(未婚患者3人の卵子4個は受精させず凍結保存
患者への最大のメリットは?「手術なし・飲み薬だけ」で自分の卵子から妊娠を目指せる時代へ

今回の研究の最も大きなポイントは、手術が必要だった早発閉経の不妊治療が、飲み薬だけで可能になる可能性が示されたことです。
河村教授は「体への負担の少ない治療方法という点が非常に大きなインパクトだ」と述べています。また「従来の研究は『種』である卵子に注目してきたが、今回の研究では卵巣という『土壌』を整えることが非常に重要だ」とも話しており、不妊治療の発想そのものを変えうる成果だといえます。
すでに別の病気の治療薬として安全性が確認されている薬を使うため、新薬の開発と比べて実用化までの道のりが短くなることも期待されます。研究グループは今後、国際的な複数の病院での大規模な試験を実施し、さらなる有効性の確認を目指す方針です。また、フィネレノン以外にも同じくFDA承認済みの抗線維化薬であるニンテダニブ・ルキソリチニブなどにも卵胞の成長を促す効果が確認されており、これらを含む候補薬の探索も続けるとしています。
まとめ:早発閉経の不妊治療に「飲み薬」という新たな可能性
順天堂大学などの研究グループが、腎臓病・心不全の飲み薬「フィネレノン」に早発閉経患者の卵巣機能を回復させる効果がある可能性を発見しました。14人の患者全員で卵子のもとの成長が確認され、8人・計9個の成熟卵子の採卵に成功。既婚患者5人が受精卵の凍結保存に至るという結果が得られています。
これまで早発閉経の不妊治療には手術が必要でしたが、飲み薬による治療の実現は体への負担を大幅に減らせる可能性があり、画期的な進歩です。研究成果は世界的科学誌「Science」に掲載され、今後は国際的な大規模試験での検証が予定されています。
早発閉経と診断された方や、妊娠を希望しているにもかかわらず月経の異常がある方は、まず専門の産婦人科・生殖医療専門医に相談することをお勧めします。
よくある質問(FAQ)
Q 早発閉経と診断されたら、もう自分の卵子で妊娠できないのですか?
A これまでは非常に難しいとされていましたが、今回の研究では飲み薬によって卵子のもとが成長できる可能性が示されました。ただし研究はまだ初期段階であり、すべての患者に適用できるわけではありません。まず専門の産婦人科・生殖医療専門医に相談し、自分の状態に合った治療法を検討することが大切です。
Q フィネレノンはすぐに早発閉経の治療薬として使えるようになりますか?
A 現時点では、早発閉経に対するフィネレノンの使用は研究段階です。今後、国際的な複数の病院での大規模な試験を経て有効性・安全性がさらに確認されてから、正式な治療薬として認められるプロセスが必要です。自己判断での服用は絶対に行わず、必ず医師に相談してください。
Q 早発閉経かどうか、どうすれば分かりますか?
A 40歳未満で月経が4ヵ月以上止まっている場合、早発閉経の可能性があります。血液検査でホルモンの数値(FSH・エストロゲンなど)を調べることで診断できます。心当たりがある方は婦人科または産婦人科を受診してください。
Q 「ドラッグリポジショニング(既存薬転用)」とはどういう意味ですか?
A すでに別の病気の治療薬として承認・使用されている薬の中から、新たな病気への効果を探し出すアプローチです。一から新薬を開発するよりも、すでに人での安全性が確かめられているため、患者に使えるようになるまでの時間を大幅に短縮できます。今回はこの手法によって1,297種類の既存薬の中からフィネレノンが見つかりました。
Q 早発閉経の不妊治療は保険が使えますか?
A 現在、早発閉経に対するフィネレノンの使用は研究段階であり保険適用外です。また従来の卵胞活性化療法(IVA)も保険適用外となっています。不妊治療全般については、2022年4月から一部の体外受精などが保険適用となりましたが、適用条件が定められているため、詳細はかかりつけの産婦人科・生殖医療専門医にご確認ください。
メディア運営者の方へ
今回紹介した最新の健康ニュースに関する記事など、正しいヘルスケア記事を公開するためには医師監修は欠かせません。
オンライン完結で医師監修ができるメディコレWEBについて、「オンライン完結!メディコレの医師監修サービス「メディコレWEB」とは?」でも紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。
ご興味いただけましたら、いつでもお気軽にお問い合わせください。










