
この記事はメディコレWEBを通じた医師監修を受けています。
📢 このニュースのポイント • 2026年3月12日、神戸地裁姫路支部が「脳外科医竹田くん」のモデルとされる元脳神経外科医・松井宏樹被告(47)に禁錮1年・執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました(求刑は禁錮1年6か月)。 • 今回の起訴は2020年1月に当時74歳の女性患者の腰椎手術中にドリルで神経を誤って切断し、両脚まひ・膀胱直腸障害など全治不能の後遺障害を負わせた件です。 • 判決翌日(13日)、被害者側代理人弁護士が記者会見を開き、医師免許の取り消しが下されるべきとの見解を示しました。被害患者の家族も「判決確定後に開かれる厚労省の審議会で厳しい行政処分を求める」と表明しています。 • 松井被告は公判で「外科医としては今後活動しないが、医師としては復帰できるならしたい」と述べていました。しかし有罪判決が確定しても、医師免許は自動的には失効しません。処分を決めるのは厚生労働省の「医道審議会」であり、別途の手続きが必要です。 |
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手術ミスで患者を両脚まひにさせた元脳神経外科医に、有罪判決が言い渡された翌日——被害者側弁護士は医師免許の取り消しを求め、被害者家族は厚生労働省の審議会への申し入れを宣言しました。一方、被告自身は公判で医師への復帰意欲を示していました。
なぜ有罪判決を受けた医師が、依然として「医師免許を持ったまま」でいられるのでしょうか。刑事罰と医師免許はどのように連動し、取り消しには何が必要なのか。医師免許と弁護士資格の両方を持つ専門家が、制度の仕組みと今回のケースの行方を解説します。
刑事罰と医師免許|なぜ有罪でも免許は失効しないのか

「有罪になったなら、医師免許は剥奪されるべきではないか」——これは多くの方が抱く、ごく自然な疑問です。しかし日本の法制度では、刑事罰と医師免許の行政処分は「別々の手続き」として設計されており、有罪判決が確定しても医師免許は自動的には失効しません。
刑事裁判は「国家が犯罪行為を罰する手続き」であり、医師免許の取り消しや停止は「行政が資格の適否を審査する手続き」です。この二つは法的に独立しており、刑事罰が確定しても行政処分が自動的に決まるわけではありません。
⚖️ 法律の基礎知識:医師法4条・7条 |
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医師法第7条の引用する同第4条は「罰金以上の刑に処せられた者」を免許の「相対的欠格事由」として定めています。「相対的」とは、必ず取り消されるわけではなく、厚生労働大臣の裁量により取り消さないことも法律上可能であるという意味です。また、第7条による処分については「処分することができる」と行政の裁量を認める規定となっており、有罪判決があっても免許が自動で失効しないのはこのためです。 医師法第7条は、厚生労働大臣が医道審議会の意見を聴いたうえで、戒告・医業停止(最長3年)・免許の取り消しのいずれかの処分を「できる」と定めています。処分するかどうか、するとすればどの程度かは、医道審議会の審査を経て個別に判断されます。なお「戒告」は2006年(平成18年)の医師法改正で新設された処分類型です。 |
今回の松井被告の場合、2026年3月12日の判決が確定した時点で、検察庁から厚生労働省へ判決内容が通知されます。その後、医道審議会の審査プロセスが始まります。
医道審議会とはどんな機関か|処分を決めるプロセス
医師免許の行政処分を実質的に決定するのは、厚生労働省に設置された諮問機関「医道審議会(医道分科会)」です。最終的な処分権者は厚生労働大臣ですが、実務上は医道審議会の答申内容がほぼそのまま反映されることが通常です。
項目 | 内容 |
|---|---|
設置根拠 | 厚生労働省設置法第6条第1項、第10条・医道審議会令 |
審議内容 | 医師・歯科医師の行政処分の適否と内容 |
審議の公開 | 原則非公開(議事要旨のみ厚労省HPで公表) |
開催頻度 | 年2回程度(通例1月・7月頃に開催) |
処分の種類 | 戒告・医業停止(最長3年)・免許の取り消し |
処分の公表 | 医業停止・免許取り消しの場合は実名で報道発表 |
処分が決まるまでの流れは次の通りです。
📋 行政処分が決定されるまでの流れ |
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判決確定から処分決定まで、実務上は数か月から1年程度かかるケースもあります。その間、当該医師は法律上、医業を継続することが可能です。この点が「有罪でもまだ診療できる」という状況を生む構造的な要因となっています。
取り消し・停止・戒告|3つの処分の違いと過去の傾向

医道審議会が下せる処分は、重い順に「免許の取り消し」「医業停止(最長3年)」「戒告」の3種類です。業務上過失致死傷事案における過去の処分傾向を見ると、免許の取り消しは極めてまれであることがわかります。
処分の種類 | 内容 | 業務上過失事案での頻度 |
|---|---|---|
免許の取り消し | 医師免許を剥奪。基本的に永久剥奪(一定条件下での再免許制度あり) | 極めてまれ。主に性犯罪・薬物犯罪・詐欺など |
医業停止(最長3年) | 一定期間の診療禁止。期間満了後は特段の条件なく復帰可能 | 業務上過失致死で1年〜2年以内が多い。傷害は2か月〜戒告の例あり |
戒告 | 行政処分として最も軽い種別(2006年新設)。戒めの告知のみ | 軽微な過失事案で適用される例あり |
公表されている医道審議会の議事要旨によれば、業務上過失傷害では「医業停止2か月」「戒告」にとどまるケースが多く、業務上過失致死でも「医業停止1年〜2年以内」が大部分を占めています。免許の取り消しが適用されるのは、主に性犯罪・薬物犯罪・詐欺など「医師の品位を著しく損なう犯罪」に集中しています。
なお、医業停止処分後に「再教育研修(倫理研修・技術研修)」の受講が義務づけられます。研修を修了しなかった場合は、改めて行政上のペナルティの対象となります。
今回のケースはどうなるか|医師兼弁護士の見解
平野大輔弁護士からコメント |
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本件に関する事実関係としてどこまでが認定されたのかは定かではないところがありますが、知り合える範囲で申し上げるならば手技が未熟であり傷害結果が予測されたにも関わらず手術を強行したという点で、一般的な業務上過失傷害事案とは異なっています。 傷害が予測されたにも関わらず手術を行ったことの悪質性は高いものと思われますが、少なくとも1件の業務上過失致傷としてみれば、業務停止1年以下の処分が予想されます。 今後、その他にも同様の医療事件があったのか、いわゆるリピーター医師であるのかが重要なポイントです。 |
今回のケースは、過去の業務上過失傷害事案と比べていくつか異なる可能性があります。
注目ポイント | 今回の事案の特徴 |
|---|---|
判決の重さ | 禁錮1年(執行猶予3年)。業務上過失傷害としては重い部類。裁判長は「罰金にとどまる事案ではない」と明言 |
本人の発言 | 公判で「外科医としては活動しないが、医師としては復帰できるならしたい」と述べた |
社会的注目度 | 漫画「脳外科医竹田くん」を通じた高い社会的関心。被害者家族が審議会への申し入れを宣言 |
民事裁判の結果 | 民事裁判で松井被告と赤穂市に約8,900万円の賠償が命じられている(2025年5月判決) |
これらの事情が医道審議会の判断にどう影響するかが、今後の焦点となります。審議は非公開であり、個別事案の判断根拠は公表されませんが、処分の重さは「司法処分の量刑などを参考に決定される」とガイドラインに明記されています。
なぜ免許剥奪のハードルはこれほど高いのか|制度の構造的課題

医道審議会の制度には、日本の医師免許制度が抱える構造的な課題が凝縮されています。
審議が非公開:個別事案の判断根拠が公表されないため、処分を検討する過程の透明性が低いと批判されています
処分対象が刑事罰に限定されがち:示談などで刑事告訴が取り下げられると行政処分の審査対象にならず、民事での賠償命令だけでは処分の契機になりにくい構造があります
処分歴が非公表:処分を受けた医師の情報は個別に検索しない限りは一般的に公開されておらず、報道等によって公開されない限り患者が知る術が乏しいものとなっています。
処分中も「医師」と名乗れる:医業停止中でも免許は残存し、法的に「医師」の名称使用を禁止する規定がありません(弁護士資格とは対照的な制度設計です)
リピーター医師への対応の限界:刑事事件にならない範囲でミスを繰り返す医師を行政処分の対象にすることが難しく、「リピーター医師」問題の解決につながりにくいことが指摘されています
医療事故被害者団体や法律専門家の間では、処分基準の明確化・審議の透明化・処分中の医師情報の公開などを求める声が長く上がっています。この非公開・裁量性の高い審議構造は、被害者が「納得できる処分」を求めるうえでの障壁になっていると指摘されています。
患者・家族として知っておくこと
今回の事案は、医師免許制度の現状を広く社会に示しました。患者や家族として、以下のことを知っておくことが重要です。
医師の行政処分歴は原則非公開:担当医師に処分歴があっても、報道されていなければ患者が知ることは難しいのが現状です
被害者は医道審議会への申し入れができる:被害者や遺族は都道府県を通じて厚生労働省に意見を届ける手段があります
各都道府県の医療安全支援センター:患者相談窓口として都道府県に設置されています
よくある質問(FAQ)
Q. 控訴しなければ判決はいつ「確定」するのですか?
判決言い渡しから14日以内に検察・被告人双方が控訴しなければ、判決が確定します。控訴されない場合、今回の判決は2026年3月下旬頃に確定する見通しです。
Q. 行政処分はいつ頃決まりますか?
判決確定後、検察庁から厚生労働省への通知、都道府県を通じた報告書提出依頼、医道審議会の審査(2回の審議)を経て処分が決定されます。実務上は判決確定から数か月〜1年程度かかるケースが多く、処分決定の具体的な時期は現時点で予想することは困難です。
Q. 医業停止中(免許取消ではない)でも「医師」と名乗れるのですか?
法律上は可能です。医業停止は「医業の禁止」であり、免許そのものは残存しています。そのため、医業停止期間中に「医師」と名乗ることを禁止する明文規定はありません。弁護士資格では停止中の名称使用が問題となるのとは対照的な制度設計になっています。(ただし、違法性が全くないというものではありません。)
Q. 免許の取り消しになっても、将来また医師になれますか?
原則として、医師免許の再取得は極めて困難です。免許取り消し後は、処分の日から5年を経過し、かつ取り消しの理由となった事項に該当しなくなったと認められる場合に限り、医道審議会が「再免許」を答申できます(医師法第7条2項)。実際に再免許が付与された例は極めて少数にとどまっています。
Q. 今回の処分がいつ、どのように公表されるかわかりますか?
医業停止または免許の取り消しが決定された場合、医道審議会の開催日と同日に厚生労働省から報道機関に対し実名で発表されます。戒告以下の行政指導にとどまった場合は、氏名の報道発表は行われない運用となっています。
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