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💡 この記事でわかること |
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「手の力が突然入らなくなった」「呂律が回らなくなってきた」……そのような症状が続く場合、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の可能性を念頭に置く必要があります。ALSは全身の筋肉が徐々に動かなくなる神経難病であり、国の指定難病(難病法)に認定されています。
かつては「発症後数年で呼吸不全により死亡する病気」とのイメージが強くありましたが、現在は呼吸管理・栄養管理の進歩と新薬の登場により、長期療養が可能になってきました。本記事では、ALSの初期症状から最新の治療薬、難病申請の手順、利用できる支援まで脳神経内科医が詳しく解説します。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)とは

ALS(Amyotrophic Lateral Sclerosis)とは、脳・脊髄・末梢神経の「運動ニューロン」が進行性に障害を受けることで、全身の筋肉が徐々に萎縮・麻痺していく神経変性疾患です。
筋肉そのものの病気ではなく、「筋肉を動かせ」という脳の指令を伝える運動神経系が障害されることで、最終的に筋肉が動かなくなります。一方で感覚神経・視力・聴力・内臓機能・膀胱直腸機能は末期まで保たれることが多いのが特徴です。
基本データ | 内容 |
|---|---|
患者数(日本) | 約9,727人(令和5年度)※令和2年度は10,514人でその後減少傾向 |
発症しやすい年齢 | 40〜50代から増え始め、60〜70代が全体の約8割 |
男女比 | 男性がやや多い(男女比 約1.3〜1.5:1) |
家族性ALS | 全体の約5〜10%。SOD1・TDP-43・FUSなどの遺伝子変異が関与 |
孤発性ALS | 全体の約90〜95%。原因は完全には解明されていない |
指定難病 | 難病法の指定難病2号。医療費助成の対象 |
ALSの原因
ALSの大部分(約90〜95%)は孤発性であり、原因はいまだ完全には解明されていません。現在提唱されている主な仮説は以下の通りです。
グルタミン酸過剰説:神経伝達物質グルタミン酸の過剰分泌が運動ニューロンを障害する
酸化ストレス説:活性酸素が運動神経細胞にダメージを与える
TDP-43・FUSタンパク質の異常凝集:神経細胞内での異常タンパク質蓄積
神経栄養因子の減少:神経細胞の生存・維持に必要な因子の不足
家族性ALSでは、SOD1遺伝子変異(約20%)、C9orf72遺伝子変異(最多)、TDP-43・FUS遺伝子変異などが同定されています。遺伝性が疑われる場合は遺伝子診断・遺伝カウンセリングの受診が推奨されます。
ALSの初期症状・4つのタイプ
ALSは最初に障害される部位によって、以下の4タイプに分類されます。全体の約75%が上肢型・下肢型から始まります。
発症タイプ | 主な初期症状 | 割合・特徴 |
|---|---|---|
上肢型 | 字が書きにくい・ペットボトルのふたが開けられない・腕が上げにくい・箸が使いにくい | 約40〜50%。最も多いタイプ |
下肢型 | 歩きにくい・つまずきやすい・階段が昇りにくい・足がもつれる | 約25〜30% |
球麻痺型 | 呂律が回らない・飲み込みにくい(嚥下障害)・声がかすれる | 約25%。進行が比較的早いとされる |
呼吸筋麻痺型 | 手足の症状より先に呼吸困難が現れる | 約2%。まれなタイプ |
初期症状は他の疾患(頸椎症・脳梗塞・多発性硬化症・重症筋無力症など)と見分けがつきにくく、診断まで時間がかかることがあります。「運動症状のみが進行している」「感覚は正常」という特徴がALSの重要な鑑別ポイントです。
ALSの四大陰性症状(末期まで残りやすい機能)
ALSでは全身の運動神経が障害されますが、以下の4つの機能は末期まで保たれることが多く「四大陰性症状」と呼ばれます。
機能 | 詳細 |
|---|---|
眼球運動 | 眼球を動かす神経は障害されにくい。意思伝達装置(眼球移動で操作するパソコンなど)を活用できる |
膀胱・直腸機能 | 排尿・排便の神経は保たれるケースが多い。尿意・便意を感じ、介助で排泄できる |
感覚機能 | 視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの知覚神経は障害されない |
褥瘡(床ずれ) | 寝たきりになっても床ずれができにくい(メカニズムは不明だが臨床的に知られている) |
ALSの進行経過
ALSは進行性であり、症状が自然回復することはありません。一般的な経過は以下の通りですが、進行速度には大きな個人差があります。
時期の目安 | 主な変化 |
|---|---|
発症初期 | 手足の一部に力が入りにくくなる。日常生活に支障が出始める |
発症後1〜2年 | 四肢の筋力低下が進行。歩行困難・嚥下障害・構音障害が現れる |
発症後2〜4年 | 全身の筋力が著しく低下。呼吸筋も弱くなり人工呼吸器が必要になるケースも |
長期経過 | 人工呼吸器・胃ろうを使用することで10年以上の長期療養も可能 |
人工呼吸器を使用しない場合、呼吸筋麻痺により発症から平均2〜5年で死亡することが多いとされます。ただし人工呼吸器・胃ろうなどを適切に導入することで長期生存が可能であり、診断後早期からの治療方針の検討が重要です。
ALSの診断

ALSの確定診断には、以下の検査が行われます。「上位・下位運動ニューロン両方の障害が進行性に確認される」「他の疾患が除外される」ことが診断の条件です。
神経学的診察:筋力・筋萎縮・腱反射・筋線維束性収縮(fasciculation)の確認
針筋電図(EMG):下位運動ニューロン障害の客観的評価に最も重要な検査
MRI検査(頭部・頸椎・腰椎):他疾患(頸髄症・脳腫瘍など)の除外
血液検査・髄液検査:炎症性疾患・代謝性疾患の除外
呼吸機能検査:呼吸筋障害の程度評価(FVC:努力肺活量)
嚥下機能検査:嚥下造影・嚥下内視鏡による評価
診断確定には複数の専門検査が必要なため、神経内科・脳神経内科の専門医への受診が不可欠です。「ALSかもしれない」と感じたら、かかりつけ医を通じて専門医への紹介を依頼してください。
ALSの治療法
① 進行抑制薬(疾患修飾治療)
現在日本で承認されているALSの進行を遅らせる薬剤は以下の3種類です(SOD1遺伝子変異型には下表のトフェルセンも使用可能)。
薬剤名 | 投与方法 | 作用・特徴 |
|---|---|---|
リルゾール(リルテック) | 内服(1日2回) | グルタミン酸過剰による神経毒性を抑制。生存期間を約2〜3か月延長するとされる。副作用:肝機能障害・倦怠感など |
エダラボン(ラジカット) | 点滴静注または内服(経口薬は2022年12月承認・2023年4月発売) | 活性酸素による酸化的ダメージを抑制。早期ALSでの機能低下抑制効果。副作用:腎機能障害のリスク |
高用量メコバラミン(ロゼバラミン) | 筋肉注射(週2回・1回50mg) | 活性型ビタミンB12。発症早期(1年以内)の患者で進行抑制効果を確認。2024年9月承認・同年11月発売。副作用:尿が赤くなる(ほぼ無害) |
② 最新薬の動向(2024〜2025年)
海外では新たなALS治療薬の開発が進んでいます。
薬剤名 | 状況 |
|---|---|
AMX0035(フェニルブチレート+ウルソデオキシコール酸)※開発終了 | 米国FDA承認(2022年)後、第3相試験(PHOENIX試験)で有効性が確認されなかったため2024年4月に市場から自主撤退。ALS治療薬としての開発は終了している |
トフェルセン(Qalsody) | 米国FDA承認(2023年4月)。日本でも2024年12月27日に製造販売承認取得・2025年3月19日発売。SOD1遺伝子変異型ALS(全ALS患者の約2%)に特化したアンチセンスオリゴヌクレオチド薬。日本では「クアルソディ®髄注100mg」の製品名で承認・保険適用済み |
自家造血幹細胞移植・iPS細胞治療 | 国内外で研究段階。一部臨床試験が進行中 |
トフェルセンは2025年3月より日本でも保険適用で使用可能です。AMX0035は開発終了しています。主治医と相談の上、最新の治療選択肢や治験・臨床試験への参加について確認してください(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の臨床試験情報検索サイトで確認可能)。
③ 栄養管理(栄養療法)
ALS患者は食事量を維持しても体重が低下しやすく、体重減少はALSの進行速度と関連します。できるだけ体重を維持することが重要です。
高カロリー・高タンパク食を心がける(1日の目標エネルギーは通常の1.1〜1.5倍が目安)
嚥下障害が出てきたらとろみ食・ゼリー食などに形態を変更
経鼻経管栄養:嚥下が難しくなった初期段階で使用(短期間)
胃ろう(PEG):嚥下障害が進行したら早めに検討。呼吸機能が低下してから造設すると危険なため、FVC(努力肺活量)50%以上を目安に早期導入が推奨される
④ 呼吸管理
呼吸筋が弱くなると自力での呼吸が難しくなります。段階に応じて以下の方法が選択されます。
方法 | 特徴・適応 |
|---|---|
NPPV(非侵襲的陽圧換気) | マスクを装着して呼吸を補助。気管切開不要。就寝時のみ使用から開始し、段階的に時間を延ばす。早期から導入すると生存期間延長の効果あり |
TPPV(気管切開陽圧換気) | 気管を切開して人工呼吸器を装着。長期生存が可能になるが、コミュニケーション手段の確保が課題。患者・家族との十分な事前相談が重要 |
⑤ リハビリテーション・支持療法
理学療法(PT):残存筋力の維持・関節可動域の確保・転倒予防
作業療法(OT):日常生活動作(ADL)の工夫・補装具・自助具の導入
言語聴覚士(ST):嚥下訓練・コミュニケーション支援(VOCA・意思伝達装置)
心理的支援:うつ病の合併率が高いため、精神科・心療内科との連携が重要
医療費の助成制度(難病申請)

難病指定による医療費助成
ALSは難病法の「指定難病(第2号)」であり、医療費助成を受けることができます。助成を受けるには都道府県への申請が必要です。
項目 | 内容 |
|---|---|
自己負担割合 | 原則2割(通常の健康保険の3割から軽減) |
自己負担上限額(月額) | 所得・病状に応じて1,000円〜30,000円(人工呼吸器装着者は1,000円) |
対象となる医療 | ALSに関する診察・検査・薬・訪問診療・訪問看護など(病院だけでなく在宅医療も対象) |
有効期間 | 1年ごとに更新申請が必要 |
難病申請の手順
かかりつけの神経内科・脳神経内科の専門医に「臨床調査個人票」の記載を依頼する
都道府県の難病相談・支援センター(または保健所)に申請書類一式を提出する
審査(通常数か月)を経て「特定医療費(指定難病)受給者証」が交付される
受給者証を医療機関・薬局に提示し、自己負担上限額での支払いを受ける
難病申請に必要な主な書類
特定医療費(指定難病)支給認定申請書
臨床調査個人票(専門医が記載)
住民票・健康保険証のコピー
市区町村民税の課税証明書(所得確認のため)
医療費申告書(受給を希望する医療機関・薬局一覧)
申請は診断後できるだけ早めに行いましょう。申請から認定まで数か月かかることがあり、医療費の自己負担が大きくなる前に手続きを進めることが重要です。
利用できる福祉・介護サービスと相談窓口
ALSの患者が地ようできる福祉・介護サービスは以下です。
利用できる制度・サービス
制度・サービス | 内容 |
|---|---|
障害者手帳(身体障害者手帳) | 取得することで福祉サービス・税制優遇・交通費割引などが受けられる |
障害年金 | 初診日から1年6か月後(または症状固定時)に申請可能。国民年金・厚生年金の加入状況により金額が異なる |
傷病手当金 | 在職中に発症した場合、健康保険から最長1年6か月間の所得補償 |
介護保険 | 通常65歳以上が対象だが、ALSは40〜64歳(第2号被保険者)も特定疾病として利用可能。40歳未満はALS患者でも介護保険の対象外(障害者総合支援法を利用)。ヘルパー・デイサービス・訪問看護など |
日常生活用具給付 | 人工呼吸器・吸引器・意思伝達装置・特殊寝台などの給付(市区町村の窓口へ) |
難病患者就労支援 | ハローワークの難病患者就労支援事業。就労継続・職場への配慮を支援 |
主な相談窓口
制度やサービスを利用するための相談窓口は以下です。
都道府県の難病相談・支援センター(専門相談員が医療・福祉・就労を総合的に支援)
日本ALS協会(JALSA):患者会・情報提供・ピアサポート(alsjapan.org)
在宅療養支援診療所・訪問看護ステーション:地域での医療体制の構築
医療ソーシャルワーカー(MSW):受診中の病院にいる福祉の専門職。制度活用の橋渡し役
「ALSかもしれない」と思ったら
以下に当てはまる場合は、速やかに神経内科・脳神経内科を受診してください。
手・腕の一部が急に使いにくくなった(ペンが持てない・ボタンが留められないなど)
呂律が回らない・声がかすれるが、脳梗塞の症状(片麻痺・顔面の歪みなど)はない
歩きにくい・足が上がらないが、痛みやしびれはない
筋肉がピクピクと波打つ(筋線維束性収縮)が複数の部位に出ている
体重が急激に落ちている
ALSは早期診断・早期治療介入が予後に影響します。「様子を見よう」と放置せず、できるだけ早く専門医を受診することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q. ALSは遺伝しますか?
全体の約5〜10%は家族性ALSで遺伝子変異が関与しますが、約90〜95%は孤発性(遺伝しない)です。ご家族にALS患者がいる場合は、遺伝子診断・遺伝カウンセリングの受診を検討してください。
ALSは完治しますか?
現時点では完治する治療法はありません。リルゾール・エダラボン・メコバラミン(SOD1変異型にはトフェルセンも)は進行を遅らせる効果がありますが、根治はできません。世界中で新薬・遺伝子治療・iPS細胞治療の研究が進んでおり、将来的な治療法の開発が期待されています。
Q. 人工呼吸器は必ずつけなければいけませんか?
人工呼吸器の装着は患者本人の意思が最優先です。装着すれば長期生存が可能になりますが、コミュニケーション手段の確保や介護体制の整備が課題となります。診断後早期から主治医・家族・医療チームと十分に話し合い、ご自身の意思を「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」として記録しておくことが推奨されます。
Q. 医療費はどのくらいかかりますか?
難病法の医療費助成を受けた場合、月額の自己負担上限は所得・病状に応じて1,000〜30,000円です(人工呼吸器装着者は1,000円)。助成対象外の費用(差額ベッド代・介護用品など)は別途かかります。障害年金・介護保険・日常生活用具給付なども組み合わせることで自己負担を軽減できます。
Q. 診断後すぐに仕事を辞めなければいけませんか?
症状の進行には個人差があります。初期段階では通常の仕事を継続できる方も多くいます。職場への配慮依頼・短時間勤務・在宅勤務などの工夫で、可能な期間は就労を続けることができます。ハローワークの難病患者就労支援事業も活用できます。
まとめ
ALSは進行性の神経難病ですが、早期診断・適切な治療・福祉サービスの活用により、生活の質を維持しながら長期療養が可能です。
「手が使いにくい」「呂律が回らない」など気になる症状がある場合は、速やかに神経内科・脳神経内科を受診してください。診断後は医療費助成(難病申請)、介護保険、障害年金など多くの制度が利用できます。医療チーム・ソーシャルワーカー・患者会(JALSA)をうまく活用しながら、ご本人・ご家族が納得できる療養の道を選んでいただければと思います。
※本記事は医療情報の提供を目的としており、診断・治療を目的とするものではありません。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。
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