「目で見て、手で触れられる。だからこそ、早期発見を」――口腔がん治療に挑む口腔外科医・柴原孝彦先生の思い

「目で見て、手で触れられる。だからこそ、早期発見を」――口腔がん治療に挑む口腔外科医・柴原孝彦先生の思い

2026年7月9日

「目で見て、手で触れられる。だからこそ、早期発見を」――口腔がん治療に挑む口腔外科医・柴原孝彦先生の思い

2026年7月9日

株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師や歯科医師などの専門家の力が欠かせません。今回は、口腔がん治療の第一人者であり、東京歯科大学名誉教授、口腔外科学客員教授を務める柴原孝彦先生にお話を伺いました。

柴原孝彦先生の思い

進行がんの難しさと、患者さんへの思い

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が歯科医を志したきっかけから伺えますか?

柴原先生 父は歯医者でも医者でもなく、普通のサラリーマンでした。昨年102歳で亡くなるまで長寿だったのですが、65歳で定年を迎えるまで、勤め人としての気遣いの辛さを間近で見てきました。それで、やはり手に職を持った方がいいな、と考えたんです。医者か歯医者かで迷いましたが、兄が医者になったので、では自分は歯医者になろうと。両親も歯のことで苦労していましたから、そんな身近な理由がきっかけでした。

――数ある専門のなかで、口腔がん(口腔外科)に進まれた理由を教えてください。

柴原先生 学生の頃は、早く開業して両親を楽にさせてあげたいという気持ちが強かったんです。ところが臨床に上がっていろいろな科を回るなかで、心から尊敬できる先生に出会いました。この方の後をついていきたいと思って、その教室に入ったんです。そして、その先生が専門とされていた口腔がんの研究と治療に、いつしか深くのめり込んでいきました。

――口腔がんの臨床・研究のなかで、やりがいや難しさをどう感じてこられましたか。

柴原先生 がんは本当に辛い病気です。初期であれば患者さんに喜んでいただけることもありますが、進行した状態で手術をしても、患者さんもご家族も悲惨な思いをされることが少なくありません。口のがんは目に見えて、手で触れられるにもかかわらず、進行した状態で来られると、もう手に負えないことがあります。それでも何とかしなければと、さまざまな試みをしてきましたが、思うような結果が得られないのが現状です。だからこそ、この現実を何とかしたい、という思いを強く抱いています。

変わりゆく患者像――若年層・非喫煙者の口腔がん

臨床現場に立つ柴原孝彦先生

――口腔がんの患者さんの傾向は、以前と変わってきているのでしょうか。

柴原先生 私が大学に残った46年前は、口腔がんといえば、生活習慣の乱れた年配の男性が多い病気でした。ところが今はガラリと変わって、たとえばホテルのコンシェルジュのような身なりの整った女性の方や、タバコもお酒ともまったく縁のない20代の若い方でも発症するようになりました。規則正しい生活を送っている方に起こるという点が、非常に考えさせられる、次の大きな課題だと思っています。

――規則正しい生活を送っている方が発症する背景には、何があるのでしょうか。

柴原先生 きちんとされている方でも口の中を調べてみると、見た目はきれいでも、歯並びが少しおかしかったり、舌の位置が傾いていたり、上顎と下顎のバランスや軟らかい組織である舌の位置に、少しずつこれまでとは違う状態が見られます。これを「口腔機能発達不全症」と呼びます。若い方は顎が小さく、同じところに常に力(ストレス)がかかりやすいことも影響していると考えられます。

この課題は、実は赤ちゃんの頃までさかのぼります。母乳や哺乳瓶での飲ませ方、離乳食の与え方から始まっているんです。早く食べさせたいからとスプーンを口の奥に入れてしまうのではなく、少しずつ置いて、赤ちゃん自身に吸い込ませるように食べさせる。そうした運動を、母親教室などを通じて教えていくことで、子どもたちの舌の使い方や口の閉じ方が変わってきます。2020年以降、厚生労働省も口腔機能発達不全症に着目しこの重要性に気づき、学会が主体となって、大学病院だけでなく開業医の先生方も一緒に改善に取り組んでいます。

――口腔がんは、ほかのがんと比べて治りにくいと伺いました。

柴原先生 皮膚も口の粘膜も、同じ扁平上皮という細胞からできています。皮膚がんは早く見つかりやすく、治癒率も高い“優等生”です。ところが同じ細胞からできる口腔がんは、28種類のがんを治りのいい順に並べると、悪い方から8番目。それほど治りにくいがんなんです。

この違いの背景には、認知度の低さがあると思います。口の中を見て気づく機会が少なく、口腔がん自体が“稀な病気”と思われがちで、見つかりにくい。だからこそ、認知度を上げる活動に力を入れていますし、一般の開業医の先生方が早期に見つけられるような補助ツールの開発や、卒後教育の充実にも取り組みたいと考えています。

歯周病だけではなく、口腔全体を診る習慣を

――健康保険組合などでも「オーラルケア」という言葉をよく聞くようになりました。

柴原先生 オーラルケアというと、どうしても口腔内の清掃状態、つまり歯周病予防が中心になります。そこで、歯肉だけでなく、舌やほっぺたなど口腔内全体を見ていただく習慣を持っていただけると、随分と変わってくると思います。全体を観察する習慣が、がんの早期発見や疾患の予防につながっていくんです。

――先生が運営されている「オーラルナビシステム」について教えてください。

柴原先生 2012年から始めて、先日数えてみたら問診票が10,800件に達していました。1日あたり5〜6件、今も私自身が診断を行っています。仲間もいますが、性格がせっかちで、つい自分ですぐ見てしまうんです(笑)。これだけデータが蓄積されると、分析レポートも作れると思います。口の粘膜は複雑な形をしていて、がんではない正常な粘膜でも出っ張りがあったりする。それをがんではないかと見誤ってしまうこともあるので、卒後教育の面でも、このデータは役立つはずです。

患者さんを自分の身内のように対応することが大切

――臨床や研究で、最も大切にされていることは何でしょうか。

柴原先生 患者さんのためを思うのは当たり前ですが、それを“自分の身内であるかのように”対応することが大切だと思っています。治療がうまくいかず、患者さんから厳しい言葉をいただくこともあります。それは本当に辛いことです。それでも、常にベストを尽くし続ける。その姿勢を大事にしています。

――口腔がんのリスク要因として、いま気になっていることはありますか。

柴原先生 タバコの喫煙率はだいぶ下がってきましたが、近年は加熱式タバコや電子タバコが手軽に手に入るようになりました。これらは口腔粘膜に良くない影響を及ぼすことが分かっています。煙が出なければいい、という発想で広まっていますが、若い方が興味本位で使い始めると習慣として蔓延しかねません。とくに電子タバコは熱の影響も加わります。若年層への影響が懸念されるので、口腔がんへの警鐘は、まだまだ鳴らし続けなければならないと考えています。

――医療活動を通じて実現したい社会像を教えてください。

柴原先生 口腔がん、そして口腔の健康を保つこと。口腔がんの認知度を上げて、皆さんに気をつけていただくこと。皮膚がんと同じように「目で見て、手で触れられるがんなのだ」ということを、広く訴えていきたい。子宮頸がんは啓発が進んで罹患数も落ち着いてきましたが、口腔がんはまだ増えています。だからこそ、認知度を上げ、救える命を救える社会にしていきたいと思っています。

口腔がんの認知度を上げるためにメディアと協業したい


フジテレビの情報番組「ノンストップ」に出演する柴原孝彦先生

――企業やメディアが一般向けに発信する健康情報に、医療従事者が関わる意義をどうお考えですか?

柴原先生 健康被害への注意喚起のように、医師や歯科医師など医療従事者が関わって、正確な情報を届けることはとても重要だと思います。口腔がんは、目で見て手で触れて、早期に発見できればほとんど95%以上が治る病気です。それにもかかわらず、亡くなる方がまだ増えている。皮膚がんと同じように認知度を上げていくことに、企業やメディアにもぜひ協力していただきたいと思っています。一般向けの記事には専門的でない内容も多くありますから、専門家によるチェックは大きな意味を持ちます。

――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。

柴原先生 情報に触れるときは、一つの記事だけで納得せず、いくつかの記事を比較して読んでいただきたいと思います。それぞれの疾患や治療には、多くの大学が協力して作成した学会のガイドラインがあります。読むのは大変ですが、そうした信頼できる情報源で確認していただくことが大切です。口腔がんは、まだまだ「そんな病気があるのか」と思われる方も多い病気です。ぜひ口の中全体に関心を持ち、早期発見につなげていただければと願っています。

まとめ

健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門家(医師・歯科医師)による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。

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