「歩行は、脳の健康の指標」――“発症させない医療”を目指す脳神経内科医・伊藤規絵先生の思い

インタビューに応じる伊藤規絵先生

「歩行は、脳の健康の指標」――“発症させない医療”を目指す脳神経内科医・伊藤規絵先生の思い

2026年7月9日
インタビューに応じる伊藤規絵先生

「歩行は、脳の健康の指標」――“発症させない医療”を目指す脳神経内科医・伊藤規絵先生の思い

2026年7月9日

株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、脳神経内科医として神経変性疾患や歩行障害の診療に長年携わり、「脳を守る」予防の視点を発信し続ける伊藤規絵先生にお話を伺いました。

伊藤規絵先生の思い

医師の道を志したきっかけは、母の言葉

室内で真摯に話を受け止める伊藤規絵先生

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を目指されたきっかけから伺えますか。

伊藤先生 実は、決してエリート街道を歩んできたからではないんです。親が医師だったわけでもありません。むしろ幼少期の私は、興味のないことには全く集中できない、今でいうADHD(注意欠如・多動症)の傾向がある“落ち着きのない子供”でした。成績表の意味すら理解できなくて、小学校の成績は底辺を這っていたくらいです。

――そうだったんですね。そこからどのように医学へ向かわれたのでしょうか。

伊藤先生 私を導いてくれたのは、母の存在でした。母は戦争で生活が一変し、若くして両親を亡くして、教師になる夢も諦めて生き抜いてきた人でした。身体が弱く、資格もなかった母は、苦労の末に専業主婦になりましたが、私には常々こう言い聞かせていたんです。『女性でも、手に職をつけて自立して生きていきなさい』と。

――お母さまの言葉が原点にあったのですね。

伊藤先生 そうですね。母自身が入退院を繰り返していたこともあって、『母を助けたい』『病気で生活が壊れる寂しさをなくしたい』という思いが、自然と芽生えていきました。その気持ちが、私を医学の道へと導いてくれたのだと思います。

『歩行は脳の健康の指標』という視点から評価

――数ある診療科の中で、脳神経内科を選ばれた理由は何でしょうか。

伊藤先生 研修医時代に担当した、ある患者さんの存在が大きかったですね。原因不明の歩行障害で、長く苦しんでいらっしゃった方でした。

――その患者さんとの関わりで、何か転機があったのでしょうか。

伊藤先生 検査を重ねて、神経学的診察を丁寧に行っていく中で、わずかな所見から診断にたどり着けたんです。そして適切な治療で、その方が再び歩けるようになった。その姿に、深く感銘を受けました。症状の背後にある病態を論理的に解き明かし、生活そのものを取り戻すお手伝いができる――そこに強く魅力を感じて、脳神経内科を志しました。

――現在は、どのような臨床に取り組んでおられますか。

伊藤先生 脳神経内科医として、歩行障害をきたす疾患や認知症、パーキンソン病などの神経変性疾患を中心に診療しています。私が大切にしているのは、『歩行は脳の健康の指標』という視点です。診察室での詳細な神経学的所見と、その方の生活背景とを結びつけて評価するようにしています。

――「歩行は脳の健康の指標」。印象的な言葉ですね。実際に、歩き方から見えてくることも多いのでしょうか。

伊藤先生 ええ。例えば、転倒を繰り返しておられた高齢の患者さんがいらっしゃいました。その方の歩き方を丁寧に観察したことから特発性正常圧水頭症を疑い、治療後に再び自立して歩けるようになられたんです。ああした経験は、今でも私が臨床を続けていくうえでの活力になっています。

精緻な神経診察と生活に根ざした視点を大切に

病院で勤務する伊藤規絵先生

――診療のなかで、とくに大切にされていることを教えてください。

伊藤先生 精緻な神経診察と、生活に根ざした視点の両立です。画像や数値だけに頼らず、歩き方や会話の調子、日常動作の小さな変化といったサインから、病態を読み解くことを重視しています。

――具体的には、どんなサインが手がかりになるのでしょうか。

伊藤先生 たとえば『最近つまずきやすい』という何気ない訴え。それを手がかりに歩行を詳細に評価して、早期のパーキンソン病を疑い、介入できた症例は印象的でした。診断そのものだけでなく、その人らしい生活を守ること――そこを、臨床と研究の軸にしています。

――今、注目していることやチャレンジしていることはありますか。

伊藤先生 診療で得た知見を、講演や執筆を通じて社会に還元し、予防の視点から『脳を守る医療』の形を広げていきたいと考えています。その一つとして、2026年4月に、ダイヤモンド社から『脳の専門医が教える100歳までボケない脳 「ミクログリア」が味方する6つの習慣術』という本を上梓しました。

――ご著書を出されたのですね。反響を広げるための取り組みもされていると伺いました。

伊藤先生 はい。この本を一人でも多くの方に知っていただきたくて、全国の中央図書館への寄贈も始めました。まずは、自分が研修医時代から医師としてお世話になった、北海道の街から。少しずつ広げているところです。

『治す医療』だけでなく『発症させない医療』へ

――先生が目指しておられるVISIONを教えてください。

伊藤先生 脳や神経の病気を『治す医療』だけでなく、『発症させない医療』へと広げること。それが私のVISIONです。

――「発症させない医療」。そう考えられるようになったのは、どのような経験からでしょうか。

伊藤先生 外来で、進行してから初めて受診される方を数多く経験してきました。もっと早く日常の変化に気づけていれば守れた機能がある、と何度も痛感したんです。一方で、軽い歩行速度の低下をきっかけに生活改善に取り組まれ、その後も自立した生活を維持されている方もいらっしゃった。予防的な介入には、確かな可能性があると確信しました。

――先生ご自身は、どんな最期を思い描いておられますか。

伊藤先生 誰もが自分の脳を守る行動を選択できる社会を目指しています。そして私自身も、最期の間際まで認知がしっかりしていて、自分の足で歩き続けたい。そう願っているんです。

正確な情報を、わかりやすく――医師監修の意義

パーソナリティを務めるラジオ番組で収録に臨む伊藤規絵先生

――健康・医療情報の監修に、専門家が関わる意義をどうお考えですか。

伊藤先生 2023年に初めての書籍『寝転んで読める歩行障害』(メディカ出版)を執筆したのですが、医学書だったため、患者さんやご家族には少し分かりづらかったようなんです。その経験から、信頼できる健康記事を通じて、もっと分かりやすく伝えることの大切さに気づきました。

――分かりやすさが、行動のきっかけになるということですね。

伊藤先生 そうなんです。『これなら自分でもできそうかな』『ちょっと自分の身体と向き合ってみようかな』――そんな小さなきっかけを持っていただくことが、とても大切だと思っています。だからこそ、正確さは欠かせません。気になることがあれば、一人で抱え込まず、ぜひお近くの専門家にも相談していただきたいですね。

――最後に、この記事を読んでいる方へメッセージをお願いします。

伊藤先生 実は今、私の母が呼吸器の難病(特発性胸膜肺実質線維弾性症/PPFE)を患い、入院しています。患者の家族という立場になってみて、病気について、誰でも簡単にアクセスでき、分かりやすく、かつ正確な知識を得られることの重要性を、あらためて痛感しました。専門家が関わって正しい情報を届けることは、ご本人やご家族の安心に直結します。この記事が、皆さんが自分やご家族の健康と向き合う、小さな一歩になれば嬉しいです。

まとめ

健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。

株式会社メディコレの「メディコレWEB」は、専門医による監修をオンラインで手軽に受けられるサービスです。メディコレWEBについて、「オンライン完結!メディコレの医師監修サービス『メディコレWEB』とは?」でも紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

医師監修の専門メディア メディコレNEWS

メディコレNEWSは、医師監修の方法や対象になるコンテンツの種類、メリットなどの情報をお伝えする、医師監修の専門メディアです。医師の専門性や信頼性をプラスして、コンバージョンを最大化するための情報をお伝えします。

Copyright © 株式会社メディコレ All Rights Reserved.

医師監修の専門メディア メディコレNEWS

メディコレNEWSは、医師監修の方法や対象になるコンテンツの種類、メリットなどの情報をお伝えする、医師監修の専門メディアです。医師の専門性や信頼性をプラスして、コンバージョンを最大化するための情報をお伝えします。

Copyright © 株式会社メディコレ All Rights Reserved.