株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、消化器内科医として臨床に携わりながら、エンジニア・医療DXの専門家としても活動する林佑樹先生にお話を伺いました。

消化器内科医からエンジニアへ、それでも続ける臨床への思い

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を、そして消化器内科を志したきっかけから伺えますか?
林先生 私は15歳のときに、腸の疾患で入院したことがあるんです。もともと胃腸が弱く、消化器の調子をどう整えるかをずっと考えていないと、部活動なども思うようにできない――そんな悩みの多い人間でした。その経験から、消化器にとても興味を持ちました。手術で治りそうにない、ずっと付き合っていくタイプの慢性疾患だと感じたので、内科医として、そして消化器の専門医として、継続的に向き合っていくべきなのだろうと。消化器内科のなかでも、IBD(炎症性腸疾患)に近い領域に関心を持ちながらやってきました。
――データサイエンスやエンジニアリングは、どのように学ばれたのですか。
林先生 6〜7年目の頃、当時の消化器内科部長がとても先進的な方で、『5年後に医師の働き方改革が始まるらしいから、部内では先んじて働き方改革をやってしまおう』と。その推進役を私が任されたんです。表計算やプログラムの自動作成などをやりたくて、独学でExcelのVBAからプログラミングを学び始めました。それが面白くて、プログラミングスクールに通ったり、さらに独学を重ねたり。3年前からはエンジニアとしても働き出し、ダブルワークをするようになって、今に至ります。仕事の比率でいうと、エンジニアが8、医師が2くらいですね。
――エンジニアの仕事が中心でも、臨床を続けておられます。なぜでしょうか。
林先生 医師をあまりやらないようにしようと考えたとき、周りには起業して現場を離れた医師も多くいました。ただ、そうした方の話を聞くと、現場で患者さんを診なくなると、現場の悩みが分からなくなり、医師としての引き出しも、患者さんへの共感も減ってしまう――アイデアが出なくなって辛い、という声があったんです。それを聞いて、医師は患者さんを診ることでしか成長を維持できないのだな、と感じました。だから、完全に撤退するのはやめて、少なくとも“片足”は現場に残す。それをずっと続けています。
医療DXを実現するための人材育成に注力

――現在はどのような活動をされているのでしょうか。
林先生 仕事としては、スタートアップ2社で働いています。1つはディフェンステックの分野で、戦略・データサイエンスに関わっています。もう1つは医療系のスタートアップで、CDO(最高デジタル責任者)を務めています。加えて、医療の情報とペイン(現場の課題)を知り続ける意味も込めて、医療DXのコミュニティを運営しています。『MTUG』では、医療DXにどんな課題があるかを深掘りし、実際にDXに取り組む方へのインタビューや事例発表などを行っています。また『Beginners DX Dojo』にも理事として関わっていて、こちらは人材育成に力点を置いたコミュニティです。
――医療DXの現場では、どのような課題があるのでしょうか。
林先生 一時期DXが流行しましたが、当時から言われていたのは、『ツールを導入して終わり』になってしまう会社が山ほどある、ということです。費用がかかっただけで、本質的には何も進んでいない。本来はDX人材を育てて活用していく必要があるのに、と。その“人をどう育てるか”を、コミュニティでもずっと議論してきました。
推進の仕方も難しい。トップダウンの強制力だけでやると、現場が自分で考えなくなり、いつまでもトップが号令をかけ続けなければならなくなる。一方、ボトムアップだけだと、現場は楽になっても、その改善がトップに届かない。ミクロのDXかマクロのDXか、どちらか一方にしか届いていないケースが多いんです。現場を部分最適化するだけでは、楽にはなっても収益性は改善しない。両者のバランスを取り、部分最適にとどまらず全体の利益改善につなげることが大切だと考えています。
――ご自身の働き方を踏まえて、どのような社会を実現したいですか。
林先生 正直に言うと、医師として働くなかで、保険診療がこのまま続くのは難しいのではないか、という現実を目の当たりにすることが多かったんです。需給を考えても、医師はいずれ供給過多になっていくと以前から言われています。そのなかで、このままずっと医師だけを続けるのは、分析した上でも危ういと感じました。逃げ切れる可能性はあっても、私はそういう姿勢を取りたくない人間なので、エンジニアリングを学んで新しい道を選びました。
これからは、医師でありながら『このまま続けることに違和感がある』『他に何かないか』と考える人が増えると思います。そういう人たちの選択肢を増やせる社会でありたい。医師が今までと違う形で、もっと社会に溶け込んでいく必要があると思うんです。医師が他業界に進出してプレゼンスを高めることは、結果として医療業界全体の発展にもつながる。その“溶け込みやすい環境”を作っていきたいですね。
不確かな医療情報が流れる時代だからこそ必要な医師監修
――健康情報の発信に、医師が関わる意義についてはどうお考えですか?
林先生 正直、少し難しく感じている部分もあります。個人の医師が記事を執筆して対価を得る、という形だけで続けていくことには、私自身はあまりしっくり来ていなくて。今の時代は、AI(Claudeなど)を活用して、自分でツールやサービスを作り、社会的な課題を直接解決していくほうが、価値を出しやすいのではないかと感じています。
一方で、不確かな医療情報が流れてしまう時代だからこそ、専門家がファクトチェックや監修を行う仕組みには、大きな社会的意義があると思います。そこがなければ、誤った情報が広がるだけになってしまう。加えて、リテラシーを本当に高めるには、受け取るだけでなく、自分でアウトプットすることが欠かせない。自分の疑問に対して答えや提案をもらい、納得していく――その過程があってこそ、知識は身についていくのだと思います。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
林先生 私は、医師“として”というより、医師という職を経験してみた人、というイメージなんです。保守的なところがあるから『DXした方がいいよね』と思うし、医師という一つの職業だけでなく、ダブルワークやDX人材になったほうが面白いのではないか――そんなことばかり考えています。でも、たぶんそこが、今の私の専門なんですよね。医療DXを軸にした、新しい時代の働き方を探している。それが私の特徴だと思います。興味がある方がいたら、ぜひお話しさせてください。
まとめ
健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。
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