株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、アクアベルクリニック 院長の浅野仁覚先生にお話を伺いました。

文系志望から医師の道へ――作家への憧れと現実

――本日はお時間いただきありがとうございます!まず初めに、先生が医師を志した理由を教えてください。
浅野先生 高校時代は、どちらかというと文系でした。読書が好きで、文章を書くことも好きでしたので、エッセイや小説を書く仕事に就けたらいいなと思っていました。ただ、すぐに物書きで食べていけるほど甘い世界ではないと考え、当時好きだった北杜夫のように、精神科医として働きながら物書きを目指すほうが良いのではないかと考えたんです。
とはいえ、理系最高峰の医学部に果たして受かるのか――いっそ弁護士など文系の資格を目指すべきかとも悩み、担任の先生に相談しました。すると「司法試験は法学部に入っても受からない人が多いが、医師は医学部に入ることができればほとんどの人が国家試験に受かって医師になれる」と言われ、医学部受験を志しました。周囲に医学部を受験する友人が多かったこともあり、何となく頑張ればいけそうな気がして目指しましたが、結局2年かかってしまいましたね。
――精神科を目指されていたとのことですが、産婦人科に進まれたきっかけを教えてください。
浅野先生 精神科医になろうと医学部を目指しましたが、受かった大学が単科大学でしたので、どっぷりと医学教育を受けることになりました。5年生で病院実習が始まると、教科書でしか見たことのなかった疾患の患者さんを現実に目にします。そこで、自分の認識の甘さや覚悟の浅はかさに気づかされました……精神科は、そんなに甘くないんですよね。精神科は自分には向いていないのではないかと思い、進路に悩みました。
大学病院の実習で扱う疾患は「悪性腫瘍」、いわゆる癌の治療が目につきます。当時は分子標的薬もなく、効果の高い抗がん剤も多くはなかった時代でした。癌治療もなかなか難しいなと思っていた矢先に産婦人科実習となり、私は産科を先に回ることになりました。症例を受け持ち、お産や帝王切開を目の当たりにして、患者さんがこんなに喜んで、退院のときも『また来てね』と言って送り出せるなんて、とても素晴らしいなと、産科に興味を持つようになりました。
両親に産婦人科で産科を専攻すると伝えると、上の兄が医療過誤で死産になった過去があったせいか、あまり良い顔はされませんでした。ですが、卒業式の謝恩会で恩師の故・佐藤章名誉教授に会い、「私に任せてもらえれば、彼をちゃんと一人前にしてみせますからね。安心してください」と言っていただいて。それからは、両親もしっかり応援してくれました。
どんなことでも興味を持ってコツコツ学び続ける
――普段はどのような診療をされていますか?
浅野先生 今は産科も婦人科も診療していますが、専門は産科ですので、妊婦健診の超音波検査はしっかり診るようにしています。研修医の頃は麻酔科常勤医がいない病院にもいましたので、脊椎麻酔や硬膜外麻酔といった局所麻酔は産婦人科で施術していました。今はその経験を生かして、無痛分娩も担当しています。
また、大学病院の周産期センターに勤務していた頃は、産科出血に対応するため、IVR(Interventional Radiology/血管内治療)を産婦人科で施術していました。大野病院事件が起きた後で、福島県内から産科出血による母体死亡を二度と起こしてはいけないと思い、IVRがその切り札になると考えて、研修を受けに東京へ通っていました。ただ、産科の危機的出血は毎週のようにある訳ではありませんので、同様の手技を用いる子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術(UAE)で技術を磨いていました。関東に拠点を移した今も、IVRを教えていただいた放射線科の先生と一緒に施術しています。産婦人科医が自らカテーテル手術を行うのは珍しいと言われますが、腹腔鏡やロボット手術をされている先生方とは異なる視点で診療できるメリットもあると思っています。
――臨床で大事にしていることはありますか?
浅野先生 大学院で研究していた頃、教授の付き人を4年間やっていました。院生の頃はいつも下っ端で、学会発表はもちろん、臨床データをまとめること、動物実験の手伝い、講義の準備、外来検査、教授外来の書記など、何でもやらされました。あるとき『いつも僕ばっかりなんですよね……』とつい漏らしたら、教授にこう言われたんです。
「とにかく、なんでもやれ。無駄になるかどうかは後で考えればいい。俺はそうしてきた。研修医の頃は婦人科と関係ない手術にもいっぱい入った。でも、今はそれが役に立っている。お前がやりたいと思ったことは何でもやらせるから、目が見えて覚えが早い今のうちに何でもやっておけ」と。だから、麻酔もカテーテル手術も、いつか何かの役に立つと思って続けていましたが、今はそれが強みになっています。コスパやタイパに重きが置かれる時代になりましたが、どんなことでも興味を持って地道にコツコツ学び続けることも大切だと思っています。
インフラとしての分娩施設を、地方で維持したい

――現在チャレンジしていることを教えてください。
浅野先生 学術的な部分は大学の優秀な先生方にお任せするとして、私は一般臨床の技術やTipsなどを若い先生に伝えていければと思っています。私が産婦人科医になった頃に比べて、今は出生数が半分以下になっていますので、それだけ経験できる症例数も減ります。技術習得は症例経験数がものを言いますので、少ない経験でも効率よく習得できるようになればと考えています。
特に無痛分娩は時代のニーズもあり、新しく立ち上げるクリニックや病院も多いと思います。現在は麻酔科医が麻酔管理を担当することが増え、産婦人科医が管理するケースは減っていますが、無痛分娩の分娩管理は通常とは全く別物になりますので、産婦人科側から見た管理の注意点やTipsを伝えられたら良いなと思います。仕事以外では、バイクでツーリング動画を撮影したり、全国の神社へ安産祈願の行脚をしたりもしています。
――先生が目指すVISIONを教えてください。
浅野先生 インフラとしての分娩施設を、地方で維持すること、でしょうか。今いるクリニックは、分娩施設が休診や閉院でなくなったエリアの自治体からの要請で建てられました。唯一の分娩施設であっても、ガイドラインに準じた医療を都会と変わらないレベルで提供できなければ、維持は難しいと考えています。インフラとは、そういうものと考えていますので。そういった意味でも、地方でいろいろなトレーニングを受けた経験が生きているように思っています。
専門医による医師監修の重要性
――先生はメディコレWEBの監修医としてご協力いただいていますが、どのような思いで携わっていただいているのでしょうか?
浅野先生 インターネットやSNSは情報源の重要なツールになっていますが、肝心の情報の真偽についての判断は、本人に委ねられています。誰でも発信できることは、諸刃の剣に他なりません。誤った情報で取り返しのつかないことにならないよう、専門医がエビデンスに基づいた情報をきちんと発信することが重要だと思っています。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
浅野先生 医学について説明する際、「絶対」はありません。医学における絶対は、「人は生まれて死ぬこと」だけです。ですから、結果的に「可能性が高い」「多くの場合」など、歯切れの悪いコメントになることが多くなります。一方で、個人の経験(1回〜数回)をもとに、影響力の大きい(声の大きい)人が断定的な言い方をすると、まるでエビデンスのある事のように聞こえてしまう危うさがあります。
「芸能人がやっていたから大丈夫ですよね」と言われることはよくありますし、それに釘を刺すと嫌な顔をされることもあります。けれども医学は科学ですから、迷ったら成功確率の高い選択肢を選ぶことが基本です。結果的に、それが患者さん自身の生存率を高めることになりますので、ぜひ、影響力(発言力)の大きさだけで判断されることのないようにしていただきたいと思います。
まとめ
健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。
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