株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、大阪府東大阪市の小阪産病院で、感動体験としての出産を追求する産婦人科医・伊尾紳吾先生にお話を伺いました。

出産の感動に出会って――産婦人科医として『満足してもらう医療』を目指す

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を志したきっかけから伺えますか?
伊尾先生 実は、高校生までは馬の騎手になりたかったんです。小さい頃から馬が大好きで、乗馬にもよく通っていました。それが高校1年生のときに医学部志望に切り替わって。人と人とのつながりや、感動体験、思い出といったものをすごく大事にしたいと思ったんです。説明をして人の気持ちが通じ合う――そういうところに、動物と関わること以上の魅力を感じて、進路を転換しました。
――数ある診療科のなかで、産婦人科を選ばれた理由を教えてください。
伊尾先生 5〜6年生までは心臓血管外科を考えていたんです。ただ、6年生の実習で北海道・帯広の、出産を専門にしている病院に行ったことが、大きな転機になりました。今の小阪産病院と似た雰囲気で、街の7割くらいの方がそこで出産しているような病院でした。1日に10人ほどのお産があって、初めて出産に立ち会って、もう本当に感動して。お母さん方と一緒にディナーを囲む機会もあって、『満足してもらう医療』を極めているところで産むのとでは、感じることが全然違うんだろうな、と。
実習の帰りに大きな公園に寄ったら、子どもたちがたくさん遊んでいて。『この街の7割の人が、あの一つの病院で生まれたのか』と思うと、出産を支えることのすごさを実感したんです。心臓血管外科は、見学に行くと『10年に1人の天才がいればいい』という厳しい世界に感じました。産婦人科は、ある程度の技術があれば多くの医師が貢献できる。そこも自分に合っていると思い、この道に進みました。
出産医療を取り巻く変化への思い

――産婦人科医としてのやりがいは、どんなところに感じますか。
伊尾先生 毎日お産に立ち会っていますが、そこには家族の助け合いがあって、感動が生まれます。みんなが『おめでとう』という思いで過ごしているあの瞬間は、本当に魅力的だなと思いますね。
――出産をめぐる社会の動きで、感じている変化はありますか。
伊尾先生 今、出産費用の無償化や保険適用といった形で、全国どこでも一律に、という平均化の動きがあります。その流れも大事なのですが、一方で、妊産婦さんに一つひとつのお産で感動してもらい、満足した体験になれば次のお産にもつながっていく。そうした『特別感』や『感動体験』を大切にしている病院が続けていきにくくなるのではないか、という心配もあります。標準化が進んで、『出産だけしてもらいました』というような冷たい医療になってほしくない。一人ひとりに、また産みたいと思ってもらえるお産を届けたいんです。
小阪産病院でしか味わえない特別な体験を

――診療で大切にされていることを教えてください。
伊尾先生 安全面は、私たち医師や助産師といったプロフェッショナルがしっかり担保します。当院では麻酔も含め、小さめの病院ながら複数の専門家が集まって安全を守っています。そのうえで、他の病院では体験できないようなこと――特別なディナーを召し上がっていただいたり、ニューボーンフォトを撮影したり、最近ではミキハウスとコラボレーションした病室を作ったり。新しいことに挑戦して、妊産婦さんに『成功体験』を持ち帰っていただくことを大切にしています。出産が辛い思い出ではなく、人生の成功体験になる。すべては、その体験の質を高めることに軸があります。
――近年、力を入れて取り組んでいることはありますか。
伊尾先生 2〜3年前から、未来ある子どもたちに医療を身近に感じてもらう職業体験を行っています。幼稚園児や小学生に病院へ来てもらい、午前30人・午後30人ほどで、産婦人科医体験、看護師体験、助産師体験、シェフ体験を。性教育として『どうやって人が生まれるのか』も、身近に感じてもらいます。子どもたちがすごく楽しそうにしていると、お父さんお母さんも幸せそうで。『ここで生まれたんだ』ということも実感してもらえます。
反響はとても大きく、倍率は5倍、10倍に迫るほどです。来てくれた子から手紙をもらったり、『先生のためにキーホルダーを作ってきました』『あの時の先生の言葉が、心に残っています』と言ってもらえたり。『また来たい、今度は違う職業を体験したい』とリピートしてくれます。ここで生まれた子が、大きくなってこの病院に戻ってくる。地域のなかで、いのちがめぐっていく。その中核になれたら、と思っています。
日本初のミキハウスとのコラボレーション病室

――ミキハウスとのコラボ病室は、どのような経緯で生まれたのでしょうか。
伊尾先生 もともと退院時のギフトに、ミキハウスのタオルなどを入れたオリジナルのギフトボックスを作っていたんです。ミキハウスは世界的にも注目されるブランドで、本社が隣町(八尾)にある。特別感がすごくあるなと思って、いっそ病室自体を変えてしまいたい、と。ミキハウスの『笑顔の子どもたちに、安心の製品を届ける』という考え方が、私の思いともよく似ていたんです。病院とミキハウスのコラボ病室は、日本初の取り組みになりました。
ミキハウスはスポーツ選手を数多く支援していて、オリンピック選手をたくさん所属しています。その縁で、選手に病院へ来てもらうイベントも行っています。『こんなにすごい人が、実は近くに住んでいたんだよ』『自分もなれるかもしれない』と、身近なロールモデルを子どもたちに見せたい。今年は、体操の世界選手権でメダルを取った選手に来てもらう予定です。病室づくりにもこだわっていて、照明はブルーライトを抑えたものにしています。産後のお母さんは夜、数時間おきに起きることも多く、睡眠の乱れが産後うつにつながるとも言われます。少しでも寝つきやすいように、と考えた仕組みです。育児に悩んだときに『この部屋で過ごしたな』と思い出せる、物語のある空間にしていきたいですね。
パーパスは『真心のケア』
――地域に根ざしたイベントも開催されていますね。
伊尾先生 毎年11月3日の『いいお産の日』に、病院で『すくすくフェスタ』を開催しています。昨年は1,100人ほどが集まりました。当院で出産された方が中心ですが、8人・10人と家族みんなで来られる方も多くて。『おじいちゃんおばあちゃんもここで、お母さんもここで出産した』と、三世代で来てくださる。愛される医療機関は、働いているスタッフにとっても、自分たちが世の中の役に立っているという実感につながると思っています。
――ご自身の活動を通じて、どのような社会を実現したいですか。
伊尾先生 北海道出身で、開拓精神のようなものが子どもの頃から刷り込まれている気がします(笑)。新しいことをやりたい、という気持ちが強いんです。私たちのパーパスは『真心のケア』。思いやりの心で、社会に感動を生み出すことを掲げています。スタッフの優しい声かけや、広い心で理解する姿勢を積み重ねていく。今は目の前の患者さんにしかインパクトを与えられませんが、『こういうことをしている病院があるんだ、いいな』と共鳴してくれる人たちを、どんどん増やしていきたい。愛情を持って育てられた子どもたちが、きっとこの社会をもっと良くしてくれる。そう期待しています。
正しい情報を届けるために――医師監修の意義

――少子化という大きな課題に対して、医療者にできることは何だとお考えですか。
伊尾先生 少子化はさまざまな要因が絡み合った難しい問題です。医療者にできるのは、正しい知識を届けることだと思っています。出産に関する情報はSNSなどで玉石混交になりがちで、プロの医療者ではない立場から発信されることも少なくありません。だからこそ、専門家が監修して情報を整えることには、とても大きな意味があると感じています。
――メディコレWEBでの医師監修にも通じた考え方ですね。先生は医師監修の意義をどう考えていますか?
伊尾先生 一般の方に正しく伝えることは、とても大事です。とくに出産は、医師でも学生時代には非常に分かりにくい領域なんです。私自身、初めて現場に入って『正しい情報はこうなんだ』と知ったことがたくさんありました。だからこそ、一般の市民の方にはもちろん、これから医療を担う助産師さんや若手の医師にも、正しい知識や心持ちを丁寧に伝えていきたい。一つの記事が何万人にも読まれる時代ですから、医師監修を通じて情報を整えることの意義は、ますます大きくなっていると思います。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
伊尾先生 今は出産にある程度特化して診療していますが、もともと不妊治療もしっかり学び、iPS細胞研究所に4年間在籍して、受精卵から体がどう作られるのか、胚や胎盤がどう育つのかといった再生医療の基礎研究にも取り組んできました。妊娠・出産の入り口から、いのちが生まれる仕組みまで、幅広い視点でお役に立てればと思っています。出産を、人生の成功体験に。そんな医療を、これからも仲間や地域の皆さんと一緒に育てていきたいと願っています。
まとめ
健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。
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