インタビューに応じる伊藤博道先生

「症状が解決することを最終ゴールに」“二刀流”外科医・伊藤博道先生の思い

2026年7月11日
インタビューに応じる伊藤博道先生

「症状が解決することを最終ゴールに」“二刀流”外科医・伊藤博道先生の思い

2026年7月11日

株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、消化器・呼吸器の外科医としての経験を地域医療に生かす、いとう王子神谷内科外科クリニック 院長の伊藤博道先生にお話を伺いました。

伊藤博道先生の思い
伊藤 博道(医療法人社団ITOKCいとう王子神谷内科外科クリニック 理事長・院長)

1998年に筑波大学医学専門学群を卒業。筑波大学附属病院外科、筑波メディカルセンター病院、日立総合病院(消化器外科・呼吸器外科)、筑波大学附属病院呼吸器外科チーフレジデントなどを歴任し、呼吸器と消化器の両分野の専門医を取得。2012年に医学博士号を取得(筑波大学大学院、循環器の研究)。2013年より帝京大学医学部附属病院で肝胆膵外科を学び、助教などを務めた。リハビリテーションエーデルワイス病院 病院長などを経て、2016年に東京都北区で「いとう王子神谷内科外科クリニック」を開院。地域のかかりつけ医として、内科・外科・消化器・呼吸器から乳がん検診・内視鏡まで幅広く診療している。 【資格】医学博士/日本外科学会 外科専門医・指導医/日本消化器外科学会 指導医/日本肝胆膵外科学会 評議員/日本消化器病学会 消化器病専門医/日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医/日本肝臓学会 肝臓専門医/日本呼吸器学会 呼吸器専門医/日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・指導医/日本消化管学会 胃腸科専門医/日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌感染症認定医/麻酔標榜医/日本医師会 認定産業医 ほか

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死の恐怖が原点となった医師への道

診察室でお話しする伊藤博道先生

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を志したきっかけから伺えますか?

伊藤先生 一番は、小さい頃に体が弱かったことです。肺炎で死にそうになったこともありましたし、特に覚えているのは小学2年生のとき。高熱の後に腎臓に大きなダメージが来て、尿にタンパクや血が大量に出る――おそらく溶連菌感染症だったと思うのですが、腎臓を悪くすることを何度か繰り返しました。それで、“死なないためにはどうすればいいのか”を強く考えるようになったんです。小学2、3年生の頃から、自分が死ぬかもしれない、死んだらどうなるのか、と夜も眠れないほど怖くなって。

そこから、“なぜ自分は生きていられるのか”“生きられる人と生きられない人は何が違うのか”を考えるようになりました。それを学べる学問は医学だろう、そしてその知識を人のために生かせる仕事は医師しかないな、と思ったんです。

――外科(消化器外科)を選ばれた理由を教えてください。

伊藤先生 卒業まですごく悩みました。せっかく医師になるのなら、人の命に関わる、一番責任の重いところをまず学びたいと。当時はスーパーローテーション(初期研修の必修化)がなく、卒業と同時に内科か外科かを決めなければならない時代でした。内科は後からでも学べるかもしれないけれど、外科の手技は、おそらく若いうちでないと身につけにくい。人様の体をお預かりすることですから、後悔しないように外科へ行こう、と決めました。

――そこからどのようにキャリアを重ねられたのですか。

伊藤先生 外科のなかでも、実際に手術をたくさんできる機会が多いところをと考え、当時の呼吸器外科のグループに入りました。筑波大学は県内のいろいろな地域病院に派遣があって、そうした派遣先では外科医が不足しているので、消化器の手術も救急も、何でもやらせてもらえる。“何でもできる医師になりたい”という思いが根底にありましたから、経験を積むにはそこが一番だと思ったんです。実際に多くの患者さんが来るハードな病院で研鑽を積むうちに、呼吸器外科と消化器外科、両方の専門医を取得して維持していく――いわば“二刀流”のスタイルが、若い頃の私のポリシーになりました。

医師のキャリアをリセットして肝胆膵外科に再入門

医師のキャリアをリセットした当時の思い出を語る伊藤博道先生

――その後、大きな決断をされたそうですね。

伊藤先生 卒後15年ほどで、外科手術は一通りできるようになったと思っていました。ところが、救急センターで肝臓が破裂した患者さん――肝臓の裏側の血管が損傷して出血が止まらない方が来られたとき、自分の力では助けられなかった。その病院は肝臓の手術が年に一度あるかないかで、十分な経験がなかったんです。しかも輸血が届くまで何時間もかかる場所で、その日は輸血がないと言われることもあった。“自分たちの力で助けたい”と思っても届かない。その悔しさから、肝胆膵外科の高度な技術を学ぼうと決めました。

ほぼ約束されていた役職も、給料も、家も、一旦すべてリセットして、家族を連れて帝京大学の肝胆膵外科――佐野先生のもとに“入門”しました。そこで肝胆膵の手術をたくさん経験させてもらい、本当に満足のいく研鑽を積むことができました。

――クリニック開業には、どのような経緯があったのでしょうか。

伊藤先生 43歳の頃、無理をしすぎて体を壊してしまいました。手術のしすぎで、左手のピンセット(鑷子)がつまめないほど手が痛くなり、シャツのボタンも外せないくらいになって。半年ほど、鍼治療や痛み止めでしのぎながら手術を続けましたが、良くならない。スポーツ選手なら怪我を抱えて復帰することもありますが、外科は命がかかっています。もし自分が教授の立場なら、痛みと不安を抱えた医師に大きな手術を任せるだろうか――と考えたとき、若くて元気な医師に任せるだろう、と思ったんです。

もともと、いずれ内科的なことを学びながらシフトして開業したいという思いはあったので、その時期を10年ほど早める形にしました。医師のいなくなった療養型のエーデルワイス病院で院長として内科を学び直し、必要な力を身につけて開業に至りました。壮絶な流れでしたが、今につながっています。

――外科のご経験は、今の診療にどう生きていますか。

伊藤先生 とても生きています。たとえば、顔を怪我して切れてしまった方が来られたとき、傷をきれいに縫えれば喜ばれますよね。それが夜間や休日だと、多くの医療機関は困ってしまう。でも、柔軟に対応できればすごく役に立つ。専門化が進んだ今、“内科イコール縫わない”と考えると、そういう医師が減ってしまいそうで心配なんです。外科の経験があって縫える医師と、そうでない医師とは、やはり少し違う。いろいろなタイプの医師がいていいと思うので、私は自分の外科の経験を、地域のなかで生かしていきたいと思っています。

症状が解決することを最終ゴールに

診察室で子どもの患者に話しかける伊藤博道先生

――クリニックでの診療で、大切にされていることは何でしょうか。

伊藤先生 患者さんから見れば、やはり“治るか治らないか”が一番大事だと思うんです。外科で死ぬか生きるかを扱っていた頃はもちろんですが、今の診療でも、症状が解決するかどうか――そこを最終的なゴールとして大切にしています。診療は、ともすると“こなす”ものになりがちです。手際よくやること自体は大事ですが、治らない治療で手際だけを優先するようでは申し訳ない。咳が止まらない方が来たら、最終的に咳が止まらないといけない。熱なら熱が下がる、痛みなら痛みが取れる。そのために、必要なら検査もするし、時には切開して膿を出すといった処置もします。少し手間はかかっても、“治すための一歩”になるアプローチを心がけています。

――いま関心を持って考えていることはありますか。

伊藤先生 最近気になっているのは、クマの被害です。毎日のように被害が報告され、人が亡くなることに心を痛めています。私自身はクマに襲われた方を診た経験はないのですが、クマに襲われた人をいち早く探すシステム――ドローンやAIなどと、現場に駆けつけるドクターヘリのような仕組みを組み合わせ、出血に対して素早く止血・輸血ができれば、これまで助けられなかった命を救える可能性がある。医学的な知見に基づいて標準化された対応策や、安全で有効な護身具を開発・普及させることも大切ではないか、と考えています。

AIの時代にも、人の手が担う領域――外科医減少への懸念

――医療の未来について、どのようにお考えですか。

伊藤先生 デジタル化やAIが進み、診断のスピードや精度は大きく上がっていくと思います。年齢や症状を入れれば、人間が思いつくよりはるかに早く、多くの候補が出てくる。それは確かです。一方で、1ミリもないような細い血管に針を刺して縫うといった繊細な手技を、ロボットが自分の判断で行えるとは、まだ到底思えません。触って、感じて、その場で処置を施す――そうした外科的な領域は、あと40〜50年は人間の医師が担う大事な部分として残っていくと思います。

ところが、その外科医が今どんどん減っています。このままでは、がんの手術さえすぐには受けられない時代が来る、とも言われています。技術を習得できる体力と精神力が充実する時期――私自身、卒後13〜15年目頃は“何でもできる”と思えるほど自信がありました――そういう時期に、なるべく多くの医師が外科的な環境に身を置いて技術を身につけ、次の世代へ継承していってほしい。そうでないと、医療の質そのものが保てなくなってしまう。自分の経験から、その懸念を発信できたらと思っています。

正しい情報を届けるために――医師監修の意義

――最後に、健康情報の監修や、この記事を読む方へのメッセージをお願いします。

伊藤先生 公開前に専門家が内容を確認することは、大事なことだと思います。健康分野はとくに誤った情報も多いですから、正確さを担保する意味は大きい。私自身、情報発信の機会をいただくのは感染症の話題が多いのですが、外科医の視点や、医療現場で本当に困っていることなど、もっと幅広いテーマでも対話ができたらと思っています。『最近気になっていることはありますか』『現場で困っていることはありますか』と一言聞いていただけるだけで、“実はこんなことが”と新しい展開が生まれることもある。先ほどのクマの話もそうです。双方向の対話を通じて、医療現場の課題解決につながっていけば嬉しいですね。

まとめ

健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。

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