株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、音声言語医学の第一人者であり、国際医療福祉大学 東京ボイスセンター長を務める渡邊雄介先生にお話を伺いました。

音楽やエンタメに親しんで育ったからこそ選んだ音声言語医学の道

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を志したきっかけから伺えますか?
渡邊先生 父が放送局のプロデューサーで、深夜ラジオ番組などを手がけていました。そうした環境で、小さい頃から音楽やお笑いといったエンターテインメントが身近にある家庭で育ったんです。私自身もピアノを習っていて、音楽が大好きでした。
一方で体が弱く、小学2年生のときにキャッチボール中に転んで、首に杭が刺さる大怪我をしてしまって。土曜の午後で診てくれる病院が少ないなか、当時ご近所に住んでいた松永先生――のちに大学教授になられた耳鼻咽喉科の先生が、ご自身の運転で病院に運び、手術をして一命を取り留めてくださったんです。急性腎炎で1年ほど入院した時期もあり、病院がとても身近でした。その入院中に読んだ『ブラック・ジャック』の影響もあって、医師という職業に強い憧れを抱きました。
――耳鼻咽喉科、そして音声言語医学を選ばれたのはなぜだったのでしょうか。
渡邊先生 神戸大学医学部に進み、卒後の進路を考えたとき、憧れていた松永先生に相談したんです。すると「君は父親がエンターテインメントの世界の人だから、音声言語医学という分野があるので、それを専門にしたらどうか」と勧めてくださって。耳鼻咽喉科は、音楽や言葉を“聞く”という入力と、歌ったり喋ったりという出力の、その両方を医療のフィールドにしている領域です。音楽やエンタメに親しんで育った私には、まさにぴたりとはまる分野でした。
声を失うことは、人生の意味を失いかねないほど深刻な問題

――音声を専門とする医師は、どのくらいいらっしゃるのでしょうか。
渡邊先生 日本には約35万人の医師がいますが、日本耳鼻咽喉科学会の会員は約1万人。そのなかでも、音声言語医学会の専門医は100人あまりしかいません。耳鼻咽喉科の“王道”は耳で、次が鼻。声だけを専門に極めている医師は、本当にごく少数なんです。
この分野は「命に関わらない」と見られがちです。でも、歌手やアーティスト、配信者、司会者、あるいは声優や学校の先生、保育士さんにとって、声は仕事そのもの。声を失うことは、人生の意味を失いかねないほど深刻な問題です。ほんのわずかな声の不調でも、「この音が出せないと、この役はできない」という方が来られる。だからこそ、高度な専門性が求められる領域だと思っています。
――センター長として、大切にされていることはありますか?
渡邊先生 私は東京ボイスセンターのセンター長という立場ですが、私自身が疲れ切っていたり、覇気がなかったりすると、若い医師に憧れてもらえないんですよね。だから、踏ん張ってでもキラキラしていないといけない、という思いがあります。誰を診たといったことは公言しない主義ですが、東京の大きな大学の出身でなくても、大きな医局の力を借りずに体一つで東京に出てきて、ここまで仕事ができるようになりました。その姿を、この分野を目指す若い先生に感じてもらえることができればうれしく思います。
声を救うということ――患者さんとの関係

――大事な声を先生に委ねた患者さんとの関係は、どのようなものでしょうか。
渡邊先生 作品のCDやDVDに「スペシャルサンクス」として名前を載せてくださる方や、なかなか手に入らない公演のチケットを家族に、と気遣ってくださる方もいます。ただ、私が大事にしているのはそこではありません。きちんとした治療をして、その方のパフォーマンスがうまくいく。すると、それを見るお客さんや、教わる学生さんが喜んでくれる。そうやって一本の線が通っていくことに、いちばんの意味を感じています。
――先生は今年10月に開催される第71回日本音声言語医学会の総会・学術講演会の会長も務めておられます。どのような思いで臨まれていますか。
渡邊先生 本来、こうした学会の会長は、歴史ある大学の主任教授が務めるものです。私の国際医療福祉大学は日本で最も新しい医学部のひとつで、その私が会長に選んでいただいたのは、様々な先生方の後押しがあってこそでした。だからこそ私は、基礎研究の実績で勝負するのではなく、“エンターテインメントに特化する”という、これまでにないアプローチを推し進めています。
学会では、歌唱、アニメーション、声優など、それぞれの分野の第一人者を招いて、実演を交えたワークショップを行います。クラシックはどう歌い、ポップスはどう歌い、声優はどう言葉を作るのか。医師が、本当のトップの話ができる人を招いて、参加者のために場を用意する。賛否もあると思いますが、既存の枠にとらわれない新しい知見を共有したく思っています。
声のトラブルの経緯を丁寧に聞くことを大事に
――日々の診療では、どのような患者さんを診ておられますか。
渡邊先生 東京ボイスセンターでは、月曜から土曜まで毎日診療を行っています。歌手やライバー、司会者、学校の先生、保育士、音楽大学や宝塚を目指す受験生まで、声で生きる方々が本当にたくさん来られます。東京は劇場もコンサートも配信も圧倒的に多く、地方からも、乗り換えなしで来られる新幹線沿線を中心に、多くの方がわざわざ東京に来ていただき受診されます。
患者さんの多くは、あちこちの医療機関やトレーナーを巡った末に来られます。だからこそ、これまでの経緯を丁寧に聞くことを大切にしています。同じ『声が出ない』でも、クラシックの独唱と、アイドルグループの一員とでは意味合いがまるで違う。肘が痛いといっても、サッカー選手と野球選手では見るところが違うのと同じです。歌のジャンル、規模、その人の立ち位置まで考えて、ケアや治療方針を決めています。私自身、オペラからミュージカル、ストレートプレイまで現場に足を運び、『このセリフ回しなら喉が疲れるだろうな』と体感するようにしています。
――いま力を入れている研究について教えてください。
渡邊先生 日本医療研究開発機構(AMED)の資金を得て、加齢に伴う声の衰え――加齢性声帯萎縮症に対する外科治療法の研究を進めています。超高齢社会の日本では、難聴とともに、うまく喋れなくなることも大きな課題です。トラフェルミンという薬を声帯に用いることで、萎縮した声帯に張りが戻り、声が良くなる。今は自由診療でしか使えませんが、私は今年60歳になったところで、65歳までにこれを保険適用にできればと強い思いがあります。
――声を守ることは、どのように暮らしにつながるのでしょうか。
渡邊先生 高齢者施設などでも、一人で過ごす方より、みんなで食事をしたり、クラブ活動やカラオケを楽しんだりする方のほうが元気なんです。そして、そこには“モテるおじいちゃん・おばあちゃん”がいる。それはコミュニケーション能力なんですね。相手の言うことが聞き取れて、自分の気持ちを声で伝えられること。『美味しいですね』の一言も、ガラガラ声では伝わりきらない。
人と対面で、表情を見ながら話し、笑い、共感し合う。これは認知機能の維持や、社会的な孤立を防ぐうえで欠かせません。今後、人口のかなりの割合が高齢者になっていきます。若々しい声を保つことが、その方のコミュニティでの存在感や、豊かな暮らしを支える鍵になると考えています。
「Good Voice, Good Life」健康な声で豊かな人生を

――情報があふれる時代に、医師が監修として関わる意義をどうお考えですか?
渡邊先生 専門家がきちんと関わって正しい情報を届けることは、あるべき姿だと思います。一つの記事が何万人にも読まれる時代ですから、専門医が目を通して一本止めるだけでも、大きな意味があります。同時に、監修する側の“質”をどう担保するかも大切な課題です。自分の専門分野に責任を持ち、内容にきちんと向き合える専門家が関わること。それが、社会にとって不可欠な情報の信頼性を支えていくのだと思います。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
渡邊先生 私が自書にサインを求められることがあるときに必ず書く言葉が、「Good Voice, Good Life」です。人の第一印象は見た目が大きいと言われますが、その次に来るのが声です。メラビアンの法則にあるように、同じ言葉でも、良い声でなければ感動は伝わりません。人が言葉を交わすための道具である声を大切にすること。それが、より楽しく、より知的で、より豊かな人生を送るための土台になります。逆に言えば「No Good Voice, No Good Life」。ぜひ、ご自身の声を人生の大切なテーマの一つとして持っていただけたらと思います
まとめ
健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。
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