株式会社メディコレが目指す「誰もが安心できる医療情報に触れられる社会」には、情報を監修する医師の力が欠かせません。
今回は、栃木県真岡市で30年以上にわたり地域医療を支え、24時間365日の在宅医療に取り組む真岡西部クリニック院長・趙達来(ちょう・たつらい)先生にお話を伺いました。

病気がちだった幼少期――医療への憧れが芽生えるまで

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を志したきっかけから伺えますか?
趙先生 2歳のときに2階から落ちて、生死を彷徨い1か月ほど入院したことがきっかけで、親が事故を恐れて外で遊ばせてもらえず、たびたび熱を出しては病院で点滴を受けるような病弱な子供でした。
普通の子供なら病院に連れて行かれれば泣き騒ぐものですが、私はちょっと変わった、“病院が好きな子ども”だったんです。看護師さんに針を刺されてもじっと我慢して、シリンジに血が逆流するのを眺めているような子供でした(笑)。そうしているうちに医療への憧れが芽生え、自分も人を救う側に回りたいと思うようになりました。
――医学部を目指されたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
趙先生 韓国人の父と、日本人の母から生まれた自分は、当時の国籍法では自動的に韓国籍となってしまいます。
ぼんやりと医学への憧れはありましたが、猛勉強に身を投じる覚悟がありませんでした。しかし高校2年の秋の進路指導で「君は韓国籍だから普通に大学を卒業しても公務員や大企業への就職は難しい」と言われました。当時は昭和の時代です。成績が足りないなら勉強すればよいのですが、国籍の壁を突き付けられてはどうしようもありません。
もともと漠然と医師になりたい気持ちはありましたので、覚悟を決めて医学部を目指しました。その日からはわき目も振らず、全ての誘惑を振り切って受験勉強に明け暮れる、まさに一本道でした。
――医師になられてから麻酔科に進まれたのは、なぜだったのでしょうか。
趙先生 当時の福島県立医科大学の麻酔科は、手術室の麻酔はもちろん、救急も集中治療もペインクリニックも手がける、とても面白い医局でした。ICUで重症患者さんの管理にも数多く関わり、救命救急外来でも働けることにやりがいを感じていました。入局して4年で麻酔指導医の資格も取り、まさにバリバリ活躍していました。
ところが父は医療に全く関係のない人間でしたが、大学に入学以来私に開業させたいという強い願望がありました。息子の私には十分にそれを察知していましたから、絶対に開業させられない様に予防線を張って麻酔科を選んでいたのですが、医局から派遣されて一人医長で働いていた米沢市立病院にまで、設計士や建築業者を連れてきて、勝手に設計図を広げる様子を見て、呆然としました。
そして、建設が始まり自分は観念してしまいました。それが今の真岡西部クリニックです。当時はまだ28歳。自分のキャリアを守るか、親子の縁を守るか、複雑な決断でした。
医者とは「困ったときに駆けつけて助けに来てくれる存在」

――開業当初は、どのような状況だったのでしょうか。
趙先生 学位研究や、自分の勤務の希望もありそれを済ませて35歳で開業しました。若かったですからね。正直なところ、開業して何をやるか、明確な戦略があったわけではないんです。栃木県には縁もゆかりもなく、まさに“落下傘部隊”でした。建物はありましたので運転資金だけを借りて一か月で開業してしまいました。大胆ですよね、ある意味無謀だったかもしれません。医師会でも「変な医者が開業した」と思ったかも知れません。
しかし、明確な「戦略」なしで飛び込んだからこそ、「何でもやってやろう」という気持ちで、目の前の患者さんに必要なことを一つずつやっていく姿勢で行けたのだと思います。
――先生は早くから在宅医療に取り組まれてきました。その原点を教えてください。
趙先生 往診は、開業したときから当然やるつもりでした。
私が子どもの頃、高熱で寝込んだときに、近所の田口病院の田口先生が往診に来てくれたんです。消毒液の匂いの白衣姿で、「熱があるね」と触れて、注射や薬を出してくれる。そこには安堵した自分がいました。病院の先生が来てくれたことがとても嬉しくて、「医者とは、困ったときに駆けつけて助けに来てくれる存在なんだ」と、心に刻みこまれました。だから開業したら、呼ばれれば必ず往診に行こうと決めていました。
在宅医療を本格的に学ぶきっかけになったのは、小山(おやま)の太田秀樹先生との出会いです。クリニックの看護師に訪問看護ステーションの研修をお願いしようと相談に伺い、話し合ううちにすっかり意気投合してしまいました。太田先生とは「在宅ケアネットワーク栃木」を一緒に立ち上げ、在宅の仲間を増やしていく活動を今も続けています。
今では次の世代の人材が多数、新たな世話人として活躍するようになりました。
2040年を乗り越えるまでーー近隣の地域を守り抜く

――臨床、とくに在宅の現場で大切にされていることは何でしょうか。
趙先生 患者さんにはクリニックに来てくれたら元気と喜びを持ち帰って欲しい、在宅では病に苦しむ人たちを助けに行く、そのシンプルでピュアな気持ちを持ち続けたいことです。私を頼って来てくれる患者さんは、自分の家族だと思って接しています。
私は開業した時から24時間365日、日曜だろうと夜中だろうと、呼ばれれば喜んで伺う、そういう診療スタイルを続けてきました。しかし10年ほど前にクリスチャンとなり、患者さんとの出会いは神様の導きであると悟りました。今は世の光、地の塩となるべく働いています。
――医療活動を通じて実現したい社会像を教えてください。
趙先生 今はどの病院も経営が厳しく、新規の開業医が減り、後継者がいないが故に閉院するクリニックも増えています。医療機関が減っていく一方で、団塊の世代の高齢化により患者さんは一時的に増え続けます。このピークの2040年を乗り越えるまで、真岡西部クリニックが患者さんを支え、地域医療を守り抜く、それが私に残された使命であると信じています。
もう一つは、在宅医療、とくに在宅緩和ケアのノウハウを次の世代に引き継ぐことです。私のクリニックには終末期のがん患者さんが多く紹介されて来られます。私が手を抜けば、自宅での療養が難しくなってしまう方たちが出てしまう。しかし、自分はもうすぐ古希です。だからこそ、これから在宅医療を担う若い先生方に、自分のやり方を伝えていきたいと考えています。
――情報があふれる時代に、AIの医療活用についてどうお考えですか。
趙先生 AIは想像以上のツールです。多くの医療従事者も診断のツールとして臨床に応用し始めています。もちろん私も1年ほど前から利用しております。
最近では一般の方がAIで調べられて「こう診断された」と持って来られることもあります。自分の健康に注意が向くこと自体は良いことです。
ただし、AIは正しくインプットしなければ、正しいアウトプットは得られません。
しかも、AIが一度出した回答が的確かどうかを判断し、新たな情報を追加したり、AIの回答を修正したりする――そうした“やりとり”ができるかどうかが使いこなす上で大切です。
しかし多くの方は、最初の答えをそのまま鵜呑みにしてしまいがちです。だからこそ、AIを上手に使うには、専門家のアドバイスが欠かせません。最終的な判断は、専門家が経験やエビデンス、使用する薬剤、そして患者さん一人ひとりの状況・バックグラウンドに照らし合わせて行うべきものなのです。AIが何でもできる、正しいと思い込むのは危険です。良いところも限界も理解した上で使うことが大事だと思います。
臨床のリアルを届ける――医療情報発信と医師監修の意義

――企業やメディアが発信する健康情報に、医師が監修として関わる意義をどうお考えですか?
趙先生 臨床現場で患者さんを診ている医師の“リアルな知見”が加わるだけで、情報の伝わり方はまるで違ってきます。同じテーマの記事でも、「実際にこういう患者さんがいて、こういうことがあった」という一言があるだけで、機械的でなくなり、読む人の心に入っていきます。
バイアスのかからない、中立的な立場からの発信であることも重要です。専門性に合った医師がきちんと監修することが、これからますます求められると思います。
これからは、AIにホームページのURLを読み込ませて、引用している論文の信頼性や、その医師の専門分野が内容と合っているかを確認する――そんなファクトチェックの仕組みも有効でしょう。AIの答えが正しいかどうかを検証できるようなサービスがあれば、情報の信頼性を担保する仕組みとして、とても期待できると思います。
――最後に、この記事を読んでいる方にメッセージをお願いします。
趙先生 私が一番大切にしているのは、「患者さんは家族だ」ということです。患者さんは、自分たちを選んで来てくださっている。この人たちを守るのは、家族を守るのと同じなんです。
だからスタッフにも、患者さんを自分の家族だと思って、優しく接しなさいと伝えています。おかげさまで、患者さんから「ここの看護師さんは優しい」と声をかけていただけるのが何よりの喜びです。この気持ちを、これからも持ち続けていきたいと思います。
まとめ
健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。
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