「症状ではなく、原因と“脳”を診る」医学とビジネスをつなぐ医師・田中伸明先生の思い

インタビューに応じる田中伸明先生

「症状ではなく、原因と“脳”を診る」医学とビジネスをつなぐ医師・田中伸明先生の思い

2026年7月12日
インタビューに応じる田中伸明先生

「症状ではなく、原因と“脳”を診る」医学とビジネスをつなぐ医師・田中伸明先生の思い

2026年7月12日

株式会社メディコレが目指す、誰もが安心できる医療情報に触れることができる社会には、情報を監修する医師の力が欠かせません。今回は、神経内科・東洋医学を土台に、働く人のメンタルヘルスに独自のアプローチで取り組む、ベスリクリニック(ベスリ会 初代理事長)の田中伸明先生にお話を伺いました。

田中伸明先生の思い

テクノロジーと医学の融合への強い関心

クリニックに併設されたオフィスで医学への思いを語る田中伸明先生

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まず、先生が医師を志したきっかけから伺えますか?

田中先生 そんなに立派な話はないんですよ(笑)。田舎の高校で少し勉強ができたので、なんとなく、という感じです。あえて言えば、父が旧満州の医科大学の出身でした。戦争が終わって日本の医学部に編入できず、医師にはなれなかったのですが、当時は医学部に入ると兵役が延びるので、それを避けるために医学部へ、というパターンもあった時代でした。父の旧制中学の同級生には医師が多く、そうした背景も少しはあったのだと思います。

実は私自身は、もともと理系で、経済や商社の世界に憧れていました。理系で経済を学べる学部を目指したり、商社で世界を走り回りたいと思ったり。それが最後は、先生方の説得もあって医学の道になった、というのが正直なところです。ですから、もともと医学以外の世界を見ていた人間なんです。

――学生時代から、テクノロジーと医学の融合に取り組まれていたそうですね。

田中先生 医学部に入った頃、ちょうどマイコン――パソコンが生まれた時代でした。クラスで最初にコンピュータを買ったのが私で、マイコンクラブを作り、それを医療情報研究会へと発展させ、全国のME(医用工学)研究会でも活動しました。そのなかで、コンピュータで東洋医学の自動診断システムを作れないか、と関心を持つようになったんです。調べてみると、すでに会社として取り組んでいるところがあって。そこでツムラに手紙を書いて自己PRをしたところ、戦略的に学生を送る大号令のもと、北京中医学院に留学させてもらえることになりました。医学生時代に、コンピュータと東洋医学、その両方に打ち込んでいたんです。

診断がつかない患者に向き合うことで見出した独自のキャリア

神経内科を選んだ当時を振り返る田中伸明先生

――神経内科を選ばれたのは、どのような理由からでしょうか。

田中先生 研修医の頃はまだ研修制度がなく、専門を直接選んで入局する時代でした。私は東洋医学をやりたかったので、高い視点を持った教授のいる神経内科に入りました。神経内科なら、病名や病態がはっきり分からなくても、鍼灸や漢方といった手段で治療にアプローチできる。診断がつかず“たらい回し”にされてしまう患者さんを、漢方などで診ていく――そういう概念で採用してもらい、自分で自由に研修を組み立てました。神経内科を軸に、東洋医学も融合させた“ニューロ漢方”のような、独自のキャリアを歩んでいったんです。

――その後、行政やビジネスの世界にも身を置かれます。

田中先生 神経内科の専門医を取り、富山医科薬科大学で和漢診療学を学んだ後、諏訪中央病院で地域医療に携わりました。当時はまだ在宅医療が保険診療になる前で、その仕組みをモデルとして作ったんです。全国で最も一人当たりの医療費が低い地域を支える仕組みで、それが当時の厚生省の目に留まり、私が担当になった。その縁で厚生省に入り、経営を担う人材を育てるプロジェクトに関わりました。

行政で学ぶうちに『これは経営学ではなく、海外モデルの紹介にとどまっているのでは』と感じ、経営学そのものを学びたくなった。それでMBAの先にあるコンサルティングファームに加わったんです。ちょうど『医師がコンサルタントとして通用するか』という実験的な採用の第一号でした。医師は“答えを知っている問題”に答える訓練を受けてきますが、ビジネスは“答えのない問題”を解くのが仕事。その解き方を学べたことは、今の私の大きな財産になっています。

症状名でなく、原因と病態を診る

神経内科医としての適応障害へのアプローチを語る田中伸明先生

――現在のベスリクリニックでは、どのような診療をされているのでしょうか。

田中先生 働く人の適応障害に特化しています。特徴的なのは、症状に病名をつけて対症療法をするのではなく、その前の段階を診ることです。たとえば、眠れないという症状に睡眠薬を出すのではなく、まず『原因は何か』を突き止める。環境という外的な原因があり、それに対する脳の反応として二次的に症状が起こる。だから、原因を診断して整理し、脳に起きている“病態”を診断して治療する。症状・病態・原因という三つを分けて考えるのが、ベスリの治療原則です。

神経内科では、たとえば右手の麻痺があれば、脳なのか、脊髄なのか、末梢神経なのか、筋肉なのか、と原因の部位を突き止めます。それと同じで、メンタルの不調も、原因と病態にきちんと分けて診る。原因が解消でき、二次的に起きた不調を治せば、元に戻る。それが『薬に頼らない治療』の出発点です。

――症状を、どのように捉えているのでしょうか。

田中先生 私たちが診ているのは、学校を出て、会社でしっかり働いている、脳が正常な人たちです。脳が正常だからこそ、強いストレスに対して症状が起こる。吐き気や不眠といった身体・精神の症状は、いわば体を守るための正常な反応、“症状情報”なんです。だから、それを異常とみなして薬で抑え込むのではなく、まず原因である環境を整理する。原因が取り除かれ、二次的に障害されていた脳や体の機能が戻れば、本来は特別な治療は要らないはずなんです。この考え方が、私たちの診療の根っこにあります。

ビジネスリワークで再発防止に注力

――再発予防を重視されているそうですね。

田中先生 ここがとても大切なポイントです。原因が取り除かれても、元の職場に戻れば、また同じ原因がやってくる。だからそのままでは再発してしまうんです。休職を繰り返すほど、その後の復職も難しくなり、キャリアも崩れていきかねない。安易な休職と復職の繰り返しは、ご本人にとって望ましくありません。

そこで私たちは、ストレスのなかでも耐えられる心身の力や、落ちてしまったパフォーマンスを高める仕組み――“成長を支える医療”を治療に組み込んでいます。これを『ビジネスリワーク』と呼び、単に職場へ戻すのではなく、再発を防ぐところまで徹底する。それがベスリのメソッドです。

――客観的な評価にも取り組まれていますね。

田中先生 『脳適応不全症候群』という概念を提唱しています。同じ『うつ』『不安』という言葉でも、その中身は人によって違う。そこで、脳波や自律神経を測定する技術――アメリカのFDAを通った技術も導入して、脳と体の状態を客観的に“見える化”しています。脳が生み出す心の状態(脳波)と、体を制御する自律神経を同時に測ることで、たとえば『今は休職した方がよい』『この状態なら復職できる』といった判断を、ファクトベースで示せる。不安や恐怖も、もとをたどれば脳が生み出すものですから、脳の状態をデータで捉えることには大きな意味があります。この技術は、発達や認知の領域にも応用できると考えています。

医学的なエビデンスを担保した情報発信の重要性

独自のベスリメソッドを説明する田中伸明先生

――いま新たに挑戦していることを教えてください。

田中先生 AIの時代ですから、自分の知識や経験、考え方をすべて注ぎ込んだ“デジタルツイン”――『デジタル田中』を開発しています。特定の専門医のノウハウをデジタル化し、24時間365日、まず相談できる入り口として提供する。そのうえで必要に応じて医療機関につなぐ、というプラットフォームです。皮膚科で有名な先生、循環器で有名な先生――そうした各分野の専門医のデジタルツインを作っていく、という展開も十分にあり得ると考えていて、実験的に取り組んでいるところです。

――健康情報の監修や、産業界との連携についてのお考えを聞かせてください。

田中先生 医学と医療が違うように、医療は“医学の社会化”です。そのさらに社会性が高いところにあるのがヘルスケア。だとすれば、医療に医学を使うのと同じように、ヘルスケアにも医学のエビデンスを使えばいい、と考えています。実際に、音楽が心にどんな変化を与えるかを脳波や自律神経で測ったり、リラクゼーションの前後で自律神経がどう変わるかを測定したりと、エビデンスに基づく評価をビジネスとして進めています。『強い』『気持ちがいい』といった感覚的な評価ではなく、データで語る。ここは大きく貢献できる領域だと思っています。

健康情報についても、医学のエビデンスできちんと担保することが欠かせません。専門家が関わることで、正確で信頼できる情報を届けられる。そして、医師が医療の世界だけにとどまらず、産業界を含め、より広くその知見を生かしていくことにも、大きな意義があると考えています。『脳の見える化』のような技術が産業界でどう役立つかは、現場のニーズがあって初めて分かること。ぜひ、いろいろな企業の方と一緒に取り組んでいきたいですね。

まとめ

健康・医療に関する情報があふれる今、コンテンツの正確さと信頼性はかつてないほど重要になっています。専門医による監修は、誤った情報が読者の判断に影響するリスクを未然に防ぐだけでなく、検索エンジンからの信頼性評価にもプラスに働きます。

株式会社メディコレの「メディコレWEB」は、専門医による監修をオンラインで手軽に受けられるサービスです。メディコレWEBについて、「オンライン完結!メディコレの医師監修サービス『メディコレWEB』とは?」でも紹介していますので、ぜひこちらもご覧ください。

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